東日本大震災から、まもなく9年。小城市出身のジャーナリストで、映画監督の土井敏邦さん(67)が手がけたドキュメンタリー映画「福島は語る」が注目を集めている。

 放射能から子どもを守るため避難した母親の葛藤、「福島産は…」と敬遠される農家の苦悩、出身地を語れない子どもたち-。2014年から4年がかりで集めた被災者の証言だけで構成したドキュメンタリー映画は「福島の生の声」を、そのまま観客にぶつけてくる。

 原発事故の現実を浮き彫りにする映画は、昨年の文化庁映画賞文化記録部門優秀賞に選ばれ、「この映画はドキュメンタリーの一つの到達点といってよい作品である」とたたえられた。さらに、映画誌『キネマ旬報』でも、2019年を代表する作品として文化映画部門の第2位に位置づけられた。

 丹念に被災者に向き合い、信頼関係を築いた上で、言葉を引き出す。淡々と証言に証言を重ねて現実を浮き彫りにしていく手法は、地下鉄サリン事件で被害者一人一人に会って声を集めた作家の村上春樹さんの労作『アンダーグラウンド』を想起させる。

 この映画が、私たちに突きつけるのは「ふるさととは何か」という問いである。私たちの人生が、いかにもろいか。ひとたび、よりどころを失えばいとも簡単に崩れてしまう。そこから立ち上がり、前を向くのが、どれほど難しいか。

 東日本大震災は1万8千人以上の貴い命を飲み込んだ。そして、現在も故郷から離れて避難生活を余儀なくされている人が、今年1月時点でも4万8千人に上る。

 この数字は、佐賀県内20市町のうち、6番目に多い武雄市を上回る規模だ。9年という時間をかけてなお、癒やしようがない傷跡の深さを思い知らされる。

 この夏の東京五輪・パラリンピックは、平和の祭典に加えて、もうひとつ「復興五輪」という役割が重ねられた。東日本大震災などの打撃から復興しつつある日本の姿を世界にアピールし、さらに復興を後押ししようという狙いである。

 そのシンボルが、聖火リレーで使われるトーチだろう。佐賀市出身のデザイナー吉岡徳仁さん(53)が手がけた桜の花をイメージしたトーチは、2015年に福島県南相馬市を訪れた経験から生まれたという。小学2年生と一緒に桜のエンブレムを描いてみて、「子どもたちの力強い表現がヒントになった。被災地が立ち上がる姿を世界に見てもらいたいという思いでデザインした」と会見で語っていた。

 トーチの素材は、被災地の仮設住宅で使われたアルミ廃材が用いられた。5枚の花びらから上る炎は、中央で渦を巻き、一つになる。「さまざまな災害があったけれど、そこでの思いやりや助け合いが日本の本当の美しさ」という吉岡さんの言葉が、くっきりと表現されている。

 土井監督のドキュメンタリー映画、吉岡さんの桜のトーチ。そこに共通するのは、福島を、被災地を忘れるな、というメッセージである。東京五輪を、いかに復興の後押しへとつなげるか。「復興五輪」の理念を、かけ声倒れに終わらせてはならない。(古賀史生)

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