「ピロリ菌、いませんでしたよ」。年に一度、この時期に受ける胃カメラ検査。医師からそう告げられて安心した。苦手な胃カメラだが、いまは眠ったまま検査を受けられるので大助かりである◆ヘリコバクター・ピロリ。ヘリコはヘリコプターの「らせん」、バクターは細菌、ピロリは胃の出口の幽門の意味。日本人の4人に1人がこの菌を持っている。胃がんの主な原因とされ、胃がん患者の大半から見つかっている◆夏目漱石も、ピロリ菌が原因の胃潰瘍にかかっていたという。ロンドンに留学していたころから胃腸の不調に苦しんでいた。当時の治療法は、熱したこんにゃくで腹を温めるぐらいしかなかったというから、同情するほかない◆こんなピロリ菌だが、どこかに存在意義があるのではないか。そんな研究もある。先日紹介した『感染症の世界史』には、ピロリ菌に感染している子どもはぜんそくにかかりにくく、小児期においてはアレルギーを抑える利点が大きいという米国の調査があった。どうやら悪者とばかりはいえないようだ◆現在は、衛生環境の向上や子どもへの抗生物質の投与などで、若い人のピロリ菌の感染は少なくなっているが、もともとは人と共生してきたピロリ菌である。敵か味方か。あまりの環境の変化に、その関係を変えていったとすれば皮肉なことだ。(丸)

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