3月はライオンのようにやってくる、と英国のことわざにいう。温帯低気圧などの影響でこの時期、荒天が多いからである。日本でも「春風の狂うは虎のごとし」と猛獣にたとえられてきた◆3月といえば、江戸時代は「出替(でがわり)」の季節だった。武家や商家に雇われた下男下女は1年契約で、期間が終われば入れ替わった。〈新参の身にあかあかと灯(とも)りけり〉。戯曲家でもあった作家久保田万太郎が詠んでいる。新参の女中が新しく来た家の灯をまぶしんでいる、そんな時代劇の一場面が浮かぶようである◆新型コロナウイルスという大あらしに見舞われている今、封じ込めに向けた対策は、とりわけ社会的に弱い立場の人たちに影を落とし始めている。きのう本紙でもイベントなどの自粛で収入減となる契約社員らの声が紹介されていた◆学校の一斉休校で仕事を休んで子どもの世話をしなければならないのか、と不安を抱える保護者も多いことだろう。安倍首相は休んだ場合の助成金の創設を打ち出したが、生活をしっかり支えていく手だてになり得るか、現時点では見通せない◆ライオンのごとく訪れたあらしの天候も、下旬には穏やかになって羊のように去って行く。それが自然の摂理だと分かってはいても、気持ちの晴れないこのごろである。〈子を泣かせわれ春愁の渦の中〉能村研三。(桑)

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