英語では「首のこり」。フランス語なら「背の痛み」。いずれも日本でいう「肩こり」のことである。病名は国ごとの身体意識の違いを映し出す。日本人は特に肩に関する意識が強い国民とか。「肩を並べる」「肩の荷」「肩身が狭い」「肩を持つ」…そういえば、肩にまつわる慣用句も多い◆志賀直哉が昭和13(1938)年、奈良から東京に引っ越した際、連れてきた紀州犬が突然いなくなった。1週間後、作家はバスの車中から、街をさまよう愛犬を発見する。連れ帰ろうとタクシーに乗せると、犬はうれしさのあまり、ご主人様の両肩に前足を乗せてくる。何度振り払っても荒い息づかいで繰り返したという(随筆「盲亀浮木」)。肩に思い入れがあるのはヒトばかりではないようだ◆開幕したサッカーJ1の試合会場では、新型コロナウイルスの感染防止のため、肩を組んだりする応援が禁じられた。外国のようなハグの文化がない日本でも、他人の肩に触れる行為は案外許容されてきたものだが、今は封じ込めに誰もが肩を貸す時なのだろう◆きょうから国公立大入試の2次試験が始まる。ただでさえ体調管理に気を使う受験生にとって、厄介な新型ウイルスの騒動は心穏やかではなかっただろう。でも、もうすぐ春はくる。普段通りに答案用紙に向かえばいい◆そう、肩の力を抜いて。(桑)

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