80歳の女性の方がクリニックを受診しました。胸が痛いという軽度のうつ状態の方でしたが、新型コロナウイルス肺炎ではないかという不安もみられました。確かに、毎日のように新型コロナウイルス肺炎のニュースが報道されており、全国的にこの問題は深刻になりつつあります。大学でも、前期・後期入試、入学式などの問題があり、多くの大学で対策委員会が開催されています。私の知らない分野ですが、観光業界をはじめ企業など経済や社会に絶大な損害が生じている現状もあります。まだ人類に免疫がないウイルスの拡大、それに伴う高齢者や慢性疾患者で亡くなられた方のニュース。ただ、まだ分からないウイルスに関する情報を毎日のように報道し続けると、もともと不安の高い方には、軽微な症状であっても、自分が罹患しているかのような錯覚を起こす可能性があります。

 私はメンタルヘルスが専門で、感染症の問題には疎いのですが、以前、うつ病や自殺の問題が特集で取り上げられると、社会への影響は大きく、問題をさらに深刻化させるという論評がありました。そういう社会現象があり、私は患者さんにはあまりうつ病とかその脳機能におけるセロトニン・ノルアドレナリン仮説の問題を詳しく説明しないことにしています。「脳が疲れておられるようですね。よく眠って疲れを取りましょう。休みが最大の治療ですよ」と説明すると、安心されます。「回復にはある程度時間がかかります。必ず時間とともに改善しますよ」と伝えます。

 現代は情報化社会。しかし、「知らぬが仏」ということわざもあります。中途半端な知識が社会を不安にさせてしまう可能性があります。大学では専門家が情報満載のホームページを作成しました。それは完璧でした。ある技術職員がこの情報をホームページに掲載すると、皆さんが不安になるのではと危惧しました。掲載すべきかどうか、私には分かりません。皆さんは「知は力なり」を信じますか?(九州大学キャンパスライフ・健康支援センター教授・副センター長、統括産業医 佐藤武)

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