藩主、侯爵家の邸宅を彩った、みやびな春の香りがよみがえる。鍋島家の伝来品を所蔵する徴古館恒例のひな祭り展。往時の古写真をもとに再現した二つの大ひな壇飾りには、明治から昭和初期の歴代夫人たちが愛(め)でたひな人形や道具類約500点がずらり。特別公開の象牙細工25点と併せて楽しめる。
会場を彩るのは、最後の藩主で侯爵11代鍋島直大(なおひろ)(1846~1911年)の継室栄子(ながこ)夫人(1855~1941年)と、13代直泰(なおやす)(1907~81年)の紀久子夫人(1911~89年)のひな壇飾り。長さはそれぞれ6メートルと5メートルもある。
直大とイタリアで結婚、西洋流の社交術を学んだ栄子夫人は、鍋島家に嫁いでからひな人形を新調したとみられる。目を引くのは、団子のような丸顔と源氏物語絵巻を思わせる引目鈎(かぎ)鼻風の姿が特徴の「次郎左衛門雛(びな)」。江戸時代中期にブームとなり、公家や上級武家の間でひな人形の“本流”として長く用いられてきた。今回は直大が1907(明治40)年に新調、栄子夫人もおそろいで作った2組を展示。
同館の池田三紗学芸員(28)は「直大の還暦祝いという意味合いがあったのでは。人生の節目にもひな飾りをあつらえた当時の状況がうかがえる」と推測する。ブランコ乗り人形や、コーヒーカップ、ワイングラスなどの洋風のひな道具も並ぶ。
明治天皇の孫で、朝香宮家から鍋島家へ降嫁した紀久子夫人のひな人形は、初節句の1912(明治45)年から大正初期にかけてそろえられた。端正な顔立ちの有職(ゆうそく)雛をはじめ、親戚の宮家から献上された人形など、格調高い。
12代直映(なおみつ)(1872~1943年)の禎子(ていこ)夫人(1882~1933年)の銀製ひな道具も展示。引き出しを開閉できる書棚、ロシアの湯沸かし器「サモワール」などのミニチュアは、作りの細やかさに驚かされる。
また、皇室や宮内省の御用品として買い上げられた象牙細工は、鍋島家に御下賜品や御遺物として伝来。明治天皇の皇后、昭憲皇太后から紀久子夫人が拝領したバナナなど本物と見まがう精巧さだ。
▼佐賀市松原の徴古館=電話0952(23)4200=で3月31日まで。入館料300円(小学生以下無料)。佐賀城下ひなまつり共通券は600円。