中国から感染が広がった新型コロナウイルスによる肺炎で国内初の死者が出た。まず感染経路を調査しなければならないが、市中に感染が広がっている可能性がある。

 政府は水際対策を重視してきたが、人の往来の多い中国からウイルスの侵入を完全に防ぐのは困難だと専門家はみていた。新たな段階に入ったと受け止め、政府は国内での流行拡大を想定して明確な現状分析と対策を示し、高齢者などの重症化を最小限にするよう注力すべきだ。

 死亡したのは神奈川県の80代の女性で、1月22日に倦怠(けんたい)感を認め、28日から医療機関を受診、2月1日に別の医療機関に入院した。早い時期に国内でウイルスが広がっていたことをうかがわせる。義理の息子で、東京都内の70代のタクシー運転手も感染が確認された。和歌山県の病院に勤務する50代の男性外科医の感染も分かった。国内での医師の感染判明は初めてだ。

 感染経路をしっかり調べ、患者と接触した人々の追跡と、体調の観察が重要だ。接触者やその家族はぜひ協力してほしい。

 中国への渡航歴がない人の感染が相次いだことで、国内での流行を念頭に対応を強化しなければならない。日本感染症学会などは「既に街の中で散発的な流行が起きていてもおかしくない」との見解をまとめている。

 感染のピークを遅らせ、ピーク時の感染者、とりわけ重症者を少なくすることが焦点だ。「感染弱者」である高齢者が暮らす施設の防御にも心を配ってほしい。

 感染の広がりについて詳しい情報を提供し、対策を丁寧に説明して協力を求める必要がある。これまでの水際対策では、この点に大きな問題があった。

 政府は水際対策の一環として横浜港に停泊するクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の外国人多数を含む乗客乗員を2週間船内待機させるとしていたが、高齢者を先に下船させることにした。感染者増に歯止めがかからない上に「閉じ込められた乗客らは情報に飢えている」(米紙ニューヨーク・タイムズ)といった批判的報道が強まり、方針転換を迫られた。

 船内待機には乗客らの身体的、精神的な健康が維持でき、新たな感染は起きないという前提条件が必要だ。それが満たされていないと考えられるが、政府の説明は十分でなく、乗客らは不安と不満を募らせている。

 新型コロナウイルスは感染者の多くが軽症で、冷静に受け止めるべきだ。ただし、持病がある人や高齢者は重症化するリスクが高い。重症者を受け入れる医療態勢を整えるとともに、診療所を含めた全ての医療機関で念のため院内感染対策の総点検をしてほしい。

 ウイルス検査は対象者が中国湖北省や浙江省と関連があった場合などに限ってきたが、そうした制限を取り払う一方、どの医療機関でも迅速にできるようにするべきだ。治療薬の候補である抗エイズウイルス(HIV)薬などの効果の検証も急務となる。

 人と人の接触を減らすため、イベントの中止や縮小、さらに学校、職場、公共施設などで活動の制限も想定される。重症者の治療を優先し、軽症の人に自宅療養を呼び掛けることもあり得る。いずれにせよ、国民への十分な情報提供と説明が不可欠だ。(共同通信・上村淳)

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