唐津市の農民作家、山下惣一さんが「持続可能」な農業の在り方として、小規模・家族農業「小農」を見直すよう提言している。世界の農業の9割は小農が占めており、地域の食を支える重要な役割を担ってきた。工業的な大規模農法に比べて、自給が前提で輸送ロスや廃棄がなく、環境にもやさしいという利点がある。

 山下さんは監修した近著『新しい小農~その歩み・営み・強み』(創森社)の中で、「教典は江戸時代に書かれた農書である。永遠に持続可能な農業を説いた本が、実は日本にはたくさん残されている。世界のバイブルとなるだろう。振り返れば未来である」と説いている。

 「持続可能性」は今、人類の存続をかけた、世界的なキーワードである。貧困や飢餓、資源の枯渇など17にわたる課題を取り上げ、2030年までに解決するという目標「SDGs(持続可能な目標)」を、国連が掲げている。

 山下さんの小農は、まさに時代の要請に応える考え方に違いない。山下さんは江戸時代に書かれた農業関連の書物に価値を見いだしているが、では、江戸の知恵はどうやって取り込めるだろうか。

 昨年12月に亡くなった、江戸文学の第一人者だった九州大名誉教授の中野三敏さん=武雄市出身、享年84=が、「和本リテラシー」を身につけようと呼びかけていた。リテラシーは、読み書きする力を指す。日本の近代化は、江戸文化の否定から出発し、文化的な断絶が残った。それを埋めるのが、和本リテラシーであると考えていた。

 現代を生きる私たちにとって、変体仮名や、くずし字で記された和本の読み解きはハードルが高い。私たちが活字として目にできる解読済みの和本は、ほんの一部にすぎず、膨大な江戸の知恵が日本各地に眠ったままだ。

 中野さんは、江戸文化を理解するためには、当時の主要メディアである和本を読み解く必要がある、と主張していた。農業の指南書に限らず、和本には江戸時代のハイカルチャーからサブカルチャーまで、あらゆる知恵が詰まっているからだ。

 一方で、日本は世界でもまれな和本の宝庫でもある。古本屋に足を運べば、150年以上前の和本が、わずか千円ほどからという手軽さで手に入る。

 この文脈からは、佐賀大学が公開している「小城藩日記データベース」も大きな意味を持ってくる。このデータベースは昨年、佐賀県内からは初めて、優れた目録・書誌作りの研究を顕彰する「ゲスナー賞」(丸善雄松堂主催)の「デジタルによる知の組織化部門」銀賞を受賞している。

 小城藩の業務日誌のタイトル4万件以上を漢字仮名交じり文にしてウェブ上で公開する取り組みだ。埋もれがちな地方の史料を広く役立てる、理想的なモデルを示したと高い評価を受けた。

 まさに、ICT時代に即した、知の共有の手法だろう。すでに、AI(人工知能)を用いて、自動で和本を解読する試みも進んでいる。和本リテラシーを取り戻し、各地に眠っている江戸の知恵を掘り起こす。その先に、SDGs時代に沿った、古くて新しい指針が見つかるに違いない。(古賀史生)

このエントリーをはてなブックマークに追加