ヘビは若い時ほど脱皮を繰り返す。ひどくエネルギーを費やす、命がけの作業という◆「蛇が脱皮するの、どうしてだか知ってます?」。宮部みゆきさんの小説『火車』にこんな場面がある。「成長するためじゃないですか」「いいえ、一所懸命、何度も何度も脱皮しているうちに、いつかは足が生えてくるって信じてるからなんですってさ。今度こそ、今度こそ、ってね」◆べつにいいじゃないのね、足なんか生えてこなくても。蛇なんだからさ。立派に蛇なんだから―作中の登場人物と同じように、普通はそう考える。しかし、初めから不可能だと笑い飛ばして無為に生きることと、何度も命を危険にさらしながら「なりたい自分」のために脱皮を繰り返す生き方とでは、人生の味わいが違ってくる◆五輪という夢舞台を目指すアスリートたちの姿に、このせりふを重ねてみる。「今度こそ」とさらなる高みを追い求める選手。「今度こそ、今度こそ」と涙をこらえながら、また次のチャンスに再起を期す選手…。テコンドーの濱田真由選手と兄の康弘選手にも、それぞれの脱皮を見る◆きょうは「建国記念の日」。かつての「梅花節」である。春の訪れを告げるように、ほころんだ白梅の枝にも、じっと寒さに耐えているつぼみがある。お前もきっと花開く日がくると、そっとささやいてみる。(桑)

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