いくら気が合うと言っても、大の大人が2人だけで酒を酌み交わすというのはなかなかあることではない。お互い年を取っていればなおさらだ。逆に言えば、そうした友人がいると人生もまた豊かになる◆亡くなった梓みちよさんのヒット曲「二人でお酒を」。〈うらみっこなしで別れましょうね〉と床にあぐらをかいて歌っていた姿を思い出す。そして〈それでもたまにさみしくなったら、二人でお酒を飲みましょうね〉と語りかける。大人の歌である◆梓さんは福岡市の出身。「こんにちは赤ちゃん」はレコード大賞を受賞した。〈その小さな手 つぶらな瞳〉という永六輔さんの歌詞は、わが子への愛にあふれ多くの人に歌い継がれている。だが、梓さん本人は「大人の歌を歌いたい」と一時期、封印していたというから人の胸の内の複雑さを思う◆数多くのヒット曲を残した梓さんだが、彼女もまた一人自宅で亡くなっているのが見つかった。華やかな世界に生きた著名人の孤独な死。かつては大原麗子さん、最近も宍戸錠さんの名前が浮かぶ◆一方で、日本では大半の人が病院で亡くなることを考えれば、慣れ親しんだ自宅で最期を迎えることは、それほど悲観する話ではないのかもしれない。〈心配しないで独りっきりは子どもの頃から慣れているのよ〉。梓さんの歌が心にしみる。(丸)

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