戦後間もないころ、英国から取り寄せた本のページを開くと、さわやかないい香りがした。心地よく読書を楽しんでもらうため、用紙に香料を含ませていたそうだ◆当時、英国は戦勝国ながら多額の戦費の支払いに苦しみ、国民に耐乏生活を強いていた。そんな状況でも、海の向こうの読者にも細やかな気づかいを怠らなかったのは、歴史に名をはせたかの国のプライドと、懐の深さであったろう◆国論を二分し、すったもんだの末に欧州連合(EU)を離脱した英国に、かつての懐の深さを感じ取るのは難しい。移民の増加や景気低迷への不満があったにせよ、国際協調に背を向け、自国第一主義を貫いたその先に、確たる「バラ色の未来」が描けているようには見えない◆「自分が一番」という価値観がはびこる世の中だが、まだ捨てたものではない。熊本では県内のバス事業者5社が熊本市内の路線を共同経営するという。運転手不足や乗客減にあえぐ業界が、地域の公共交通網を維持しようと足並みをそろえた。身近なところから、手を携えることの大切さを学ぶ。こうした取り組みが、過疎地にも広がっていくといい◆きょうは節分。古来、春の訪れを邪魔する悪い鬼たちを追い払うため豆をまいた。わが身ばかりをかわいがる邪心の闇に力いっぱい豆を投げて、すがすがしい春を待ちたい。(桑)

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