病名を告げられ、ほとんどの患者が笑いだす病気があるという。それは「五十肩」。肩が痛くて腕が上がらない。とはいえ昔から「放っておいてもそのうち治る」というではないか。そんな「安心」と、もう自分も年かという「ショック」が複雑な笑いを誘う(矢吹清人「診察室の中の笑い」)◆50歳前後で顕著になる、こうした体の変調は「幸福度」と密接な関係があるらしい。米国の研究者が絶望や心配、悲しみ、疲労などに関する世界132カ国のデータを分析した。その結果、「人生の幸福度」は年齢とともにU字曲線を描き、先進国で最も幸福を感じられないのは47・2歳だった◆ちょうど仕事上の責任は重くなり、家庭では子どもの進学や親の介護など頭の痛い問題を抱えるころ。首や顔の痛み、うつ状態を訴える人はぐっと増えるという。周囲に「助けて」と言いにくいのも、この年ごろの不幸だろう◆民俗学者の柳田国男は「故郷は五十年が行き止まり」と述べている。半世紀もたてば父母や肉親など、身近な人がいなくなって、帰る場所は大方なくなってしまう。人を育んできた基盤のようなものも、そのあたりで一度作り直す時期なのかもしれない◆底を打った幸福度の曲線は加齢に従って再び上昇する。新しい自分となって歩きだすとしますか、ご同輩。あたた、また肩が…。(桑)

下記のボタンを押すと、AIが読み上げる有明抄を聞くことができます。

このエントリーをはてなブックマークに追加