昨年末のNHK紅白歌合戦に初出場したバンド「King Gnu(キングヌー)」。2019年1月にメジャーデビューしてわずか1年でブレークした彼らをカメラでバックアップしているのが佐賀市出身のフリーランスフォトグラファー、フジイセイヤさん(28)。
 フジイさんもまた、独立してわずか2年という“若手”だが、学生時代から築き上げた人脈を武器に、人物写真を中心としたアーティストやファッションモデルの撮影、広告などさまざまな場で力を発揮している。


■King Gnuを撮影

 動画サイト「YouTube(ユーチューブ)」で再生回数が1億回を突破し、紅白歌合戦でも演奏された「King Gnu」のヒット曲「白日」。ジャケットに使われているマスク姿の人物とみられるモチーフのモノクロ作品も、フジイさんが撮影した。アーティスト写真など、現在も「King Gnu」の活動を間近で支えている。
 もともと知り合いだったカメラマンが「King Gnu」のミュージックビデオ(MV)を撮っており、別の撮影で手伝いを頼まれたのが縁だという。「そのカメラマンと同世代で『他にも一緒にやろうよ』って。『King Gnu』の撮影にはたまたま参加することになっただけ」と控えめに語る。
 謙遜のようにも聞こえるが、現在のフジイさんの仕事がさまざまな人とのつながりによって支えられているのは間違いない。

KingGnuのアーティスト写真

 

フジイさんがカメラを始めるきっかけとなった写真。佐賀東高3年の時、県高校総体の男子テニスに出場した試合を佐賀新聞の山田宏一郎カメラマンが撮影していた

■テニスからカメラへ

 フジイさんがカメラと出合ったのは佐賀東高3年のころ。長くテニスに打ち込んできて集大成とも言える最後の高校総体県予選で、県内トップの選手に大敗した。その様子を、テニスを通じて知り合った佐賀新聞社の山田宏一郎カメラマンに撮ってもらい、後日写真をもらった。
 「写真を見ただけで、どのポイントの場面か分かるほど悔しさがよみがえってきた。『うわっ』という感動を与えるパワーがあった」。次の日には質屋でフィルムカメラを購入。「あの『うわっ』を色んな人に味わわせたい」とのめり込み、進路もテニスの推薦を蹴って、カメラの道を選んだ。
 進学先は九州産業大学写真映像学科。「当時はスポーツフォトグラファーになりたいと言っていた。でも何をすべきか明確に分からず、相変わらずテニスをしていた」と振り返る。友だちをモデルに人物を、テニスの会場では知り合いの選手を撮り、フェイスブックに投稿したりしていた。


■時代に合っている

 当時、フェイスブックが流行して急拡大し、被写体が誰かを示す「タグ付け」をして投稿すれば大勢に見てもらえたため、人脈も広がった。こうしてSNSの使い方を肌感覚でつかんでいく。
 大勢いる学生の中から学内誌に取り上げられたこともあったが、他の学生の扱いが「作品を美術館に買われた」などだった一方、フジイさんは「フェイスブックの友だちが1千人いる」という内容で、学内でも異色の存在だった。
 卒業後は東京の撮影スタジオに就職し、アシスタントとして丸4年働いた。休日を使い作品撮りに励んだが、そこでも活躍したのはSNS。写真投稿アプリ「インスタグラム」で自分の作品を発表し続け、モデルに「撮影させてほしい」と直接メッセージを送ったりもした。
 「そうやって『火種』をこつこつつくって、作品の仕上がりを見た人から仕事が来るという形ができていった」。次第に、知り合いやファッションブランドを立ち上げた同世代、大学時代の先輩デザイナーなどから「仕事」として声が掛かるようになっていった。
 スタジオアシスタントから独立までの道のりでは、多くがいったん先輩カメラマンに弟子入りする。だがフジイさんは弟子入りを経験せずに2018年4月、独り立ちした。「アーティストと仕事をしている人や先輩デザイナーから、『一緒にやろうよ』と誘われることが多かったから」と境遇に感謝しつつ「やってみて花が咲かなければ、30歳くらいで改めて弟子入りしても遅くない。早いうちに独立するのも時代に合っているかな」とさらりと語る。
 独立前には、池袋駅に掲示される巨大広告の仕事が入ったほか、独立を記念した初めての個展を原宿のギャラリーで開いたりもした。

サングラスなどアイウェアのブランド「OAKLEY」のモデルとして撮影したスピードスケートの小平奈緒選手
King Gnuのヒット曲「白日」のジャケット

 

■「人」と仕事をする

 フジイさんはファッション、アーティスト、YouTuber(ユーチューバー)、企業の広告用写真と分野を問わず撮るが、共通点は「関わる人が面白いこと」と言う。たとえば「King Gnu」の撮影では、バンドのメンバー兼プロデューサー・常田大希さんが率いるクリエイティブチーム「PERIMETRON(ペリメトロン)」に引きつけられている。

ファッションブランド「kenichi.」の広告

 MVやブランドCMを手掛ける同チーム。フジイさんもサポートに携わることは多いが、企画立案はあくまで同チームの中枢メンバーが担う。「自分に企画はできない。『こういうのを作りたい』という面白い考えを持ったデザイナーやアートディレクターと一緒に何かを作るのが、今は楽しい」と充実感を語る。
 人物撮影がメインのフォトグラファーとして大切にしているのも「人と仕事しているという感覚」だという。モデルとの距離も積極的に詰める。作品の出来にも無関係ではなく「仲良くなっていたら、一通り撮れた後も『こういうのもできるんじゃない?』という会話が生まれる。コミュニケーションはすごく大事」と考えている。
 突き詰めれば「人とつながるためのツールとして、カメラが今の自分に合っているというだけ。最悪、写真でなくてもいい。フォトグラファーであることにはそんなに執着がない」とさえ語る。あくまでも基準は「人」。その言葉にはわずかな迷いもない。
 学生時代にはフェイスブックで1千人とつながり、弟子入りせずに独立しても知人を介して仕事の声が掛かる―。一貫して「人とのつながり」が軸にあったフジイさん。これからもさまざまなクリエイターと共に、シャッターを切りながら新たな「つながり」を紡いでいく。

雑誌用に撮影したバンド「Official髭男dism」の写真


◆クリエイターを目指すみなさんへ

自分は誰かにとっての「ヤバいやつ」

 たった数カットの写真に魅せられ、カメラの道へと大きな決断をしたフジイさんは自身を「あまり迷いのない人間」と分析。「だから置き換えるのは難しいし、そもそもまだアドバイスできるような身分じゃないけど…」と断った上で、「『自分にはどうせできない』とか『これはもうあの人がやっているから』と、結局チャレンジしない人が多い」と指摘する。
 「僕はまず何も見ずに、何も知らずにやってみて、ふたを開けてから『ああこの人、こんな完成度高いのをもうやってるわ。でも俺は俺なりにここが良かったな』という答え合わせをする。その方が合っている」と独自の方法論を明かす。
 「SNSで見たくない物も見られちゃう時代。世の中にヤバいやつ、すごいやつらはいっぱいいる」と萎縮する気持ちも理解しつつ「自分が今どこにいるかを分かることが大事」とアドバイス。「僕の写真を見てヤバいと思っている人もいる。自分が高3の時に撮った写真を今見て恥ずかしいと思えるのも、当時の自分にとっての“ヤバいやつ”になっているということだから」と、確かな自信をにじませた。


●プロフィール

 フジイセイヤ 本名・藤井清也。佐賀東高-九州産業大学写真映像学科卒。都内のスタジオを経て2018年4月に独立。
 フリーランスフォトグラファーとしてアーティスト写真、広告写真、ウェブ素材や雑誌の記事用写真などを手掛け多方面で活躍している。主な仕事に、資生堂「モアリップ」広告、「クラシエ」朝日新聞全国朝刊広告、アパレルブランド「NINE」シーズン広告、「OAKLEY」店頭広告など。雑誌「MEN’S NON‐NO」でもアーティスト写真を撮影している。
 また、クリエイティブチーム「PERIMETRON」の作品としては、バンド「KingGnu」の「白日」ジャケット、同「飛行艇」アーティスト写真、バンド「WONK」ジャケット・アーティスト写真、シンガー・ソングライター「神山羊」アーティスト写真などに関わっている。

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