安倍晋三首相は通常国会召集日の施政方針演説で、東京五輪・パラリンピック開催年の明るい展望を語り「新しい時代へ踏み出そう」と訴えた。

 自民党総裁任期が2年を切り、年内にも衆院解散を探る首相はレガシー(政治的遺産)を意識する。しかし「宴の後」は、短期的には景気下振れリスク、中長期的にはピークへ向かう少子高齢化という現実が待つ。政権の真価は五輪後の対応で問われると言うべきだ。

 演説では第2次安倍政権の7年間への自画自賛が目立った。首相は民主党政権当時の「日本はもう成長できないという諦めの壁」はアベノミクスで「完全に打ち破ることができた」と言い切る。

 根拠に「経済は7年間で13%成長」などを挙げたが、毎年の実質国内総生産(GDP)成長率は平均1%程度にとどまる。人手不足を背景に雇用は確かに改善したが、国民には豊かになったとの実感はない。

 また首相は「引き続き2025年度の基礎的財政収支黒字化を目指す」と言うが、直近の試算は最も楽観的に見ても25年度は3兆6千億円の赤字だ。事業規模26兆円の経済対策を打ち出す一方で、財政再建の熱意に欠けると言わざるを得ない。

 そして首相は団塊世代が75歳以上になる22年に向け「全世代型社会保障」が「待ったなしの課題」と表明。一定所得がある75歳以上の医療費自己負担2割、パートなどの厚生年金の適用拡大、70歳までの就業機会確保などを進めると述べた。だが少子化対策や、膨張する介護保険財政改善への具体案は示せなかった。

 22年度から急増必至の社会保障費の財源についても、消費税10%以上へのアップを「10年間は不要」としている首相は手当の議論を避けた。これでは国民はサービス低下の不安を強めかねない。

 外交・安保では「戦後外交を総決算し新しい時代の日本外交を確立する」と宣言。ところが北朝鮮の拉致問題などは「条件を付けずに金正恩朝鮮労働党委員長と向き合う」。ロシアとの北方領土交渉も「私とプーチン大統領の手で成し遂げる」とした程度で、具体的戦略への言及はなかった。

 米国とイランの対立で緊張する中東への自衛隊派遣には野党が中止を求めているが、首相は「情報収集態勢を整え日本関係船舶の安全を確保する」のひと言で済ませた。

 ほかにも、脱石炭に後ろ向きだと国際的な批判が強まっている地球温暖化対策について「5年連続で温室効果ガスの削減を実現した」と逆に成果をアピール。東日本大震災の避難者が全国に約5万人いるにもかかわらず、JR常磐線の全面開通や外国人観光の活況を挙げ「復興五輪」を強調したのも違和感が残った。

 公費で開かれる「桜を見る会」に首相の後援会関係者が多数招かれた問題では、招待者名簿のずさんな公文書管理が相次ぎ発覚した。カジノを含む統合型リゾート施設(IR)にも元内閣府副大臣の贈収賄事件で廃止論が再燃。公選法違反疑惑で相次ぎ辞任した2閣僚の任命責任も含め、演説は何の釈明もなかった。

 首相は悲願の憲法改正に「案を示すのは国会議員の責任だ」と改めて意欲を示したが、政権の「負の部分」での説明責任が先ではないか。自身が結語で述べた「先送りでは次の世代への責任を果たすことはできない」の言葉をかみしめるべきだ。(共同通信・古口健二)

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