まだ夜が明けていない早朝から通学のためにバスへ乗り込む高校生=12月下旬、佐賀市富士町の「古湯温泉」バス停

 佐賀市富士町古湯地区のバス停で、早朝2便目を待っていた市内の私立高に通う女子生徒2人は、「寒いね」と言葉を交わすと、白い息が口元を覆った。冬休みが数日後に控えていた。

 「冬は朝早く起きるのがつらくて、学校まで親に車で送ってもらうこともある。今日も送ってもらいたかったけど、親が朝から用事があって…」。スマートフォンを操作している間にバスが到着した。

▽在宅は平均10時間

 同町の北山・中原地区から小城市内の高校に通う男子生徒(17)は、朝寝坊で数回、バスを乗り逃がしたことがあった。その度に、会社員の父親(38)は、車に乗せてバスを追った。「長男は毎朝5時半に起き、スポーツ系の部活をしているので、帰宅するのはいつも午後8時半近く。在宅は平均10時間前後。口には出さないが、相当つらいと思う」とおもんぱかる。

 父親も20年前、佐賀市の高校にバスで通学していた。当時、朝6時台の始発を皮切りに1~2時間に1本ずつ、1日上下便合わせて約20本だった平日の運行本数は、現在の27本に比べ少なかった。「市の補助金があるからだと思うが、便を増やしたり、小さな集落にも運行するなど昭和バスさんは住民のニーズによく応えてくれた」と感謝する。

 昨年2月、昭和自動車は、運転手の高齢化に伴う人材不足と働き方改革を理由に、バス26路線の見直しを発表した。長男が利用する北山線が古湯地区止まりになると知った父親は「起床時間が早くなり、乗り換えも増える。でも路線変更を批判できない」と複雑な胸中を明かす。

 「20年前、バス運転手は、町内の発着点の地区から雇っていた。今は下(市内中心部)から北山まで来て始発便を動かすと聞く。運転手は相当きついのでは」

▽新たに月数千円増

 4月に移行予定の新しい交通体系では朝晩の通学時間帯に、古湯地区を発着点にジャンボタクシーを運行するダイヤが計画されている。長男にとっては、古湯地区から小城市の高校までのバス代に加え、新たに古湯地区までの交通費が必要になる。1カ月数千円の負担増だ。

 父親は、妻(37)と長男、娘2人の5人で公営住宅に住む。妻は嘆息する。「子供3人の進学を考えると、交通費は痛い。平野部では自転車で自由に移動できるのに、中山間地では、公共交通が変わるだけで、生活が厳しくなる」。

 1950年代、1万人を超えていた富士町の人口は、中山間地域の道路整備、嘉瀬川ダム(2012年運用開始)の建設などで町外流出は加速。特に20~39歳の人口は、85年の約1500人から、2015年は約600人まで激減した。

 妻の不満を傍らで聞いていた男性は、数十人の同級生の多くが町外へと移住したのを思い起こしながら、ふと声を漏らした。

 「ここから離れる時機を真剣に考えないと…」

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