早朝から山間部を運行するバス=昨年12月下旬、佐賀市富士町の「北山校前」バス停

 午前5時58分。バスの中から見える佐賀市富士町の北山・中原地区は、街灯の光だけが点在していた。山並み、集落、田んぼ、そしてバスが走る道路…。のどかな里山の風景を映し出すはずの車窓の先は、暗闇の帳とばりが下りていた。寒さが厳しさを増す中、夜明けまで1時間も待たなければならない年の瀬のある日、同地区から市内中心部までつなぐ始発バスに乗車した。

 ▽5時前起床

 始発のバス停から3番目の「大野代官所跡」。ブレザー姿の男子高校生(17)が2つの大きなスクールバッグを抱えて乗り込んできた。運転手に「おはようございます」と短く発した後、最前列の席に座り、バスが発車すると同時に、目を閉じた。

 男子高校生は1時間半もかけ、約30キロ先の小城市内の県立高校へ通学している。母親(37)は、午前4時50分には起床し、朝食用のおにぎりと昼食用の弁当を持たせている。生徒はおにぎりをバスの中か、大和町のバス停で乗り換える小城行きの便を待つ間、もしくは高校に着いてから食べるという。

 始発バスは国道から外れ、松野、大串、栗並地区へと続く分岐道に入り、バス停で待つ生徒を拾っていった。あるバス停の傍らには、軽トラックがヘッドライトを点けたまま停車していた。バス停から遠い中山間地区から、親が毎日のように送っているという。

 暗闇の中を走るバスは途中何度か道を曲がった。地図上の路線は把握していたが、周囲が漆黒に染まっているため方向が分からなくなり、現在地を把握できずにいた。

 ▽長年の慣習

 バスの中を見渡すと、車体中央にある乗車口を境に、高校生が座る位置が前方と後方にきれいに分かれていた。前方は小城方面、もしくは早めに降車する生徒、後方は佐賀市内中心部の高校に通うため、終点まで乗車する生徒だという。座席は最前列と最後列から順に埋まっていく。富士町から通学する高校生らにとってこの乗り方は、長年引き継いできた慣習だという。

 乗車して約15分。富士町最大の集落・古湯地区で降車した。入れ替わりに乗車してきたのは制服姿の男女3人。「古湯温泉」バス停を午前6時49分に出発する次便は、市内中心部にある高校の始業前に着くとあって、多くの生徒が列を作って待っていると、地元の人から聞かされていた。

 空が白みはじめたころ、到着時間が迫るバス停で待っていたのは、女子高校生が2人。過疎化と「公共交通離れ」を象徴する光景だった。

◇   ◇   ◇

 地域を結ぶ県内の公共交通が、減便や路線廃止などの危機に立たされている。地域が廃れるため公共交通が細くなるのか、公共交通の不便さが住民の地域離れを引き起こすのか。第1章では昭和自動車のバス路線再編で揺れる佐賀市富士町の現状を取り上げながら、住民と公共交通の関係を見つめる。

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