百姓が土(どろ)を恐れんようでは一人前とはいえぬ。瀬戸内の島の農家に生まれた民俗学者宮本常一は幼いころ、父親にそう教えられた。くわにこびりついた土を、木べらを使わず落としているとしかられた。「手が荒れるに…わからんのか」◆田畑で仕事をすれば手足にあかぎれができ、体力まで奪われる。作物をはぐくむ土には、同時に恐るべき力が潜んでいる。その厳しさに向き合う態度がなければ、自然の恵みは得られないということなのだろう◆人が育つ「教育」という大地もどこか似たようなところがある。現場に身を置いていない人ほど「改革」を熱く語り、その厳しさを恐れない。実態は民間業者への丸投げやアルバイトによる採点だったりして、挙げ句、白紙撤回の手痛いしっぺ返しを食う◆そんな入試改革の行方は宙に浮いたまま、最後の大学入試センター試験がきょうから始まる。自分たちは見直しが必要な教育を受けてきたのかと、受験生が自信を持てないようでは不幸である◆「学び」とは、あの時わからなかったことが今になってわかる、というふうに長い時間の中で耕され、じっくり芽吹いていくものだろう。試験会場で真っ青になった経験を持つ先輩から、受験生にせめてものエールを送りたい。あの時わからなかった問題がいまだ解けないのは不徳のいたすところだが。(桑)

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