第三章 疾風怒濤(七十三)

「坂本君らは新選組の襲撃を受けたらしい」
 副島の話では、坂本龍馬と中岡慎太郎を襲った犯人は、新選組だと言われているという。
 ――あの連中ならやりかねん。
 かつて京都で新選組と遭遇した二人には、新選組に鮮烈な印象がある。
「坂本さんの死は、大政奉還とかかわりがあるのですか」
「おそらく――、あるだろう」
 前年の慶応二年一月、寺田屋において奉行所の捕方を殺して逃走した坂本は、京都守護職の会津藩にとってお尋ね者であり、捕縛ないしは抵抗した際の斬り捨ては正当な公務だった。むろんその裏には、会津藩が大政奉還に反対で、その陰の立役者となった坂本が憎かったこともある。
「つまり、もしもご隠居様が大政奉還を将軍家に勧めていたら――」
「周旋(しゅうせん)はわれらに任されただろう。つまり、われらが坂本君や中岡君のように斬られていたかもしれん」
 政治的な周旋だけで二人が斬られることはないだろうが、先のことは誰にも分からない。
「仮定の話はやめましょう」
「そうだな。われらは、われらの信じる道を行くだけだ」
「その通りです。これからわれらの前には、どのような苦難が待ち受けているか分かりません。しかし地に足を付け、今取り組むべきことに全力を傾けるべきです」
「その通りだ。そなたも、たまにはいいことを言うな」
 副島が高笑いする。
 西に見える長崎の町と湾は、冬の日を反射して輝いていた。
 ――われらはどこまで行くのか。どこまで行けるのか。
「副島さん、どこまで行きますか」
「えっ、どこまでって――。今日はここにいるつもりだが」
「いや、われわれ、というかこの国がですよ」
「そういうことか」と答えつつ、副島が腕を組んで考える。
 だがその答がないのは、大隈にも分かっていた。
 ――誰もが明日どうなるかなど分からないのだ。ましてやこの国の行く末など、誰にも分からない。

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