第三章 疾風怒濤(七十)

 三井子が島を諭(さと)すように言う。
「島さんのお怒りはご尤(もっと)もです。でも島さん、うちの子は昔から口が堅くないのをご存じでしょう」
「それは、まあ――」
 一緒に来た連中がうなずく。
「でしたら、秘策が漏れるくらいは覚悟しておきなさい。武士は策を秘しておればよいわけではありません。策は銭と同じで使わなければ意味を成しません。実行に移さない策など、壺に入れて埋めた備蓄銭(びちくぜに)と同じです」
 鎌倉時代から南北朝時代にかけて、富裕となった商人は蔵の地下などを掘り、甕や壺に銭を入れて保管した。だがその商人が急死してしまえば、誰も知ることなく銭は眠ることになる。それがこの時代になって掘り出されるようになっていた。
 三井子が続ける。
「策は使ってこそ値打ちがあります。すなわち佐賀藩の埋めた銭を土佐藩が使っただけで、うちの子は、そのありかを指差しただけでしょう」
 大隈が慌てる。
「だから母上、その指差したことを、島さんは怒っているのです」
「あなたは黙っていなさい」
 大隈には「はあ」としか答えられない。
 島が頭をかきながら言う。
「ややこしい話になってしまいましたが、お屋敷で暴れたのは慙愧(ざんき)に堪えません。謹んでお詫び申し上げます」
「分かったなら、それでよいのです。で、果たし合いはなさいますか。なさるのなら息子の葬儀代を借りに親戚を回らねばなりませんので、この場で決めて下さい」
 剣の腕は島の方が上なので、三井子が葬儀代を用意するのは不思議ではない。
「母上、それは困ります」
「何が困るのです」
「いや、話もせずに果し合いに至るのは、ちと短絡的では――」
「だからと言って取っ組み合いなど、中元や小者でもしませんよ」
「それは事の成り行きというものです」
 島は、きまり悪そうな顔で母子のやりとりを聞いている。
「母上、島さんもお困りです」
「そうでしょうか。ねえ、島さん」
 退散の時機を覚ったのか、島は「では、これでご無礼仕ります」と言うと去っていった。

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