♪リンゴの花びらが風に散ったよな…で始まる「リンゴ追分」は、ゆったりとしたテンポで長く伸ばす節回しが難しい曲。少女時代から歌い続けてきた美空ひばりさんは、ある宴席で作曲者から手招きされた◆「ひばりちゃん、♪えーええ、のところ最近どうして変えて歌うの?」。大人の声になって感情を込めて歌ううち、苦しくて知らず知らず息継ぎをしていたらしい。自分のずるさを見透かされたようで、ひばりさんは以来、いくら苦しくても息を切らなくなった(五木寛之「忘れえぬ人忘れえぬ言葉」)◆年末の「紅白歌合戦」で人工知能(AI)を使って歌声を再現した、ひばりさんの“新曲”を聴いた。進化する機械学習の技術に驚きつつ、1曲のわずかな間の取り方にも研さんを重ねた故人の歌心まで、コンピューターは学び取ることができるのか、素人はつい気になってしまう◆人口減少が進む時代に、AIは省力化で生活水準を高める技術革新。一方で人間の労働力が必要とされなくなり、新たな生活不安を生む懸念もある。未来は必ずしもバラ色ではないようである◆ひばりさんは「リンゴ追分」で「息を切っていた時と、息を切らなくなってからでは拍手の音が違う」と語ったという。歌に込めた思いを聴衆はちゃんと受け止めていた。人と技術の関わりもこうであるといい。(桑)

下記のボタンを押すと、AIが読み上げる有明抄を聞くことができます。

このエントリーをはてなブックマークに追加