イランが革命防衛隊司令官殺害の報復としてイラクにある米軍駐留基地を多数のミサイルで攻撃した。米、イランともさらなる攻撃の構えを見せており、報復のエスカレートによる本格的な軍事衝突の懸念が強まっている。日本も含めて国際社会は、両国に理性的な行動をとるよう全力で説得に当たるべきだ。永続的な安定に向けた国際的な交渉の枠組みづくりにも全力を挙げたい。

 イランによる攻撃は、これまでの外国にいるイラン派民兵組織を使った「代理攻撃」でなく、イランが国家として米軍を攻撃したものだ。3日の米国によるイラン司令官殺害と合わせて、両国は国家間の戦闘行為に踏み出したことになる。

 世界最大の軍事力を持つ米国に対して、中東の大国であるイランは地域一帯でシーア派の民兵組織を擁し、米軍が駐留する基地をいつでも攻撃できる態勢にある。日本も依存する石油や天然ガスの生産地が集中するペルシャ湾地域での今回の緊張は、グテレス国連事務総長が語ったように「今世紀で最も高いレベル」にあるのだ。

 だが、まだ間に合う。今、報復のエスカレートを止められれば、世界は戦争の一歩手前で踏みとどまれる。

 攻撃後イランの対話派であるザリフ外相は「均衡の取れた自衛措置」の「完了」を明らかにした。同じく対話派のロウハニ大統領の顧問は「米国が攻撃すれば、地域で全面戦争が起きるだろう」と米国に反撃をしないよう求めている。米国との戦火を避けたいイラン側の本音は明らかだ。

 しかし、司令官を失った革命防衛隊の強硬派が今回の攻撃で満足するとは限らない。革命防衛隊は米軍の反撃があれば、今度はイスラエルをも攻撃すると明言している。

 ペルシャ湾を航行する各国のタンカーやサウジアラビアの石油施設なども攻撃対象となる可能性があり、制御できない混乱に発展しそうだ。

 当面の焦点は米国の次の行動となる。8日の米軍基地に対する攻撃では、大規模な米兵の犠牲は報告されていない。トランプ米大統領は「米国民への危害」に著しく立腹する姿勢を見せていた。攻撃を受けた後、「今のところ良い方向」と述べているが、その性格からして理性的な判断を続けるとは期待できない。

 トランプ大統領は深慮なく司令官殺害を決め、外交・安全保障の高官らも反対しなかった。今後は実際に米軍部隊を前線に置く国防総省、統合参謀本部、イランとの戦争が世界に与える悪影響をよく知る国務省ら米政府の専門家集団が、大統領に間違った決断をしないよう説得してほしい。

 国際社会は米国、イラン双方に軍事攻撃の自制を呼びかけるとともに、この緊張の原因となるイランの核開発問題や中東のシーア派民兵への支援問題などを包括的、建設的に話し合う場を提案すべきだ。

 米国がイラン核合意から一方的に離脱したことから今回の危機が始まった。米国には当面反撃回避を求めるとともに、イラン核合意の意義を認め、イランに対する経済制裁を見直す柔軟な姿勢をとるよう求めたい。

 日本はイランと米国の双方との関係を重視する立場で対応してきた。だが、今この危機を抑えるために必要なのは、自制するようトランプ大統領を説得することだ。(共同通信・杉田弘毅)

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