トランプ米大統領が指示したイランのソレイマニ司令官殺害で、中東情勢が緊迫の度を増している。イランは米国に対する報復を宣言し、イラン核合意で制限されてきたウラン濃縮活動を無制限で行うと発表した。米国は中東への米軍増派を決めており、報復の悪循環が危惧される。

 緊張の高まりは一昨年にトランプ氏がイラン核合意から離脱して以来の米国の一方的な行動が招いたものだ。国際社会はまずはイランに怒りにまかせた報復を慎むよう求めるべきだが、トランプ氏のこれ以上の暴走を止めるためにも協力すべきだ。

 イランはソレイマニ司令官が率いる革命防衛隊コッズ部隊が米国の活動を執拗(しつよう)に妨害し、イラク、シリア、レバノン、イエメンを中心にイランの勢力圏を拡大し中東の秩序を崩した責任がある。

 しかし、問題の本質はトランプ氏の深慮を欠いた一連の政策にあることは間違いない。

 ソレイマニ司令官の殺害はトランプ政権が抱える政策決定の欠陥を如実に示した。

 イラクでの米国人に対する攻撃への対応措置として米軍はいくつかの策の中で「最も極端な選択肢」として司令官殺害を提案し、トランプ氏は却下したが、その後バグダッドの米大使館をデモ隊が襲撃したことを知り、急きょ承認した。米軍は承認されるとは予想せず、殺害後は必要性があったのか政権内で懐疑的な見方が出ているという。

 イランで「国民的英雄」として尊敬されるソレイマニ司令官殺害がもたらす強い反発や中東の混乱、石油価格高騰など、さまざまな影響が十分に検討されたとは思えない。「イエスマン」と言われるポンペオ国務長官、エスパー国防長官ら側近たちが、トランプ氏の直情径行型の決定にどれだけ真剣に異論を唱えたのか、疑問が残る。

 司令官殺害後もトランプ氏はイランが報復に出れば、テヘランで1979年に起きた米大使館人質事件で人質となった人数に合わせ「52カ所」と明示して攻撃を警告した。11月の大統領選を意識して「強さ」をアピールしたい狙いだろうが、理性的な判断ができているのか心もとない。

 2018年5月のイラン核合意からの一方的な離脱は、イランが合意を堅実に履行していると国際原子力機関(IAEA)がお墨付きを与える中で行われた。米国は厳しい経済制裁を復活し、「イラン原油の輸入をゼロに」と日本や欧州などにも要求している。

 今後イランは無制限のウラン濃縮活動だけでなく、核合意を破棄して核兵器開発能力を一挙に高める行動に出ることも予想される。米国が一方的に国際合意をほごにし、軍事攻撃に踏み切ったことで、北朝鮮も米国との交渉に疑問を感じ、非核化要求にますます応じなくなるとの懸念が募る。

 トランプ氏による国際社会への負の影響を無視した政策決定は、地球温暖化対策のパリ協定からの一方的な離脱や貿易相手国への追加関税の導入などにも共通する。

 日本は中東への自衛隊の派遣を閣議決定し、安倍晋三首相は中東情勢に深く憂慮するとしながらも、自衛隊派遣方針に変更はないと語った。だが、司令官殺害後の中東は次元の異なる軍事的緊張下にある。派遣の意義や危険性などを再検討すべきだろう。(共同通信・杉田弘毅)

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