昨晩は久しぶりにチャンネルを合わせてみた。日曜夜の人気番組「ポツンと一軒家」である。去年1年間、大河ドラマに肩入れしていたころは、いまいましい裏番組の高視聴率が不思議でならなかった◆衛星写真から人里離れた一軒家を見つけ、険しい山道に分け入って住民に会いに行く。そこで語られる波乱に満ちた半生と、老いてなお前向きな生き方。不便であっても満ち足りて暮らすことの幸福感に視聴者はあこがれるのかもしれない◆昔は「山上がり」という習慣があったそうだ。群馬の山あい上野村に暮らす哲学者内山節さんが書いている。村人が経済的に困窮すると森へ入って小屋を作り、自給自足で1年を過ごす。その間、働ける家族が出稼ぎに行って借金を返し、一家は村の暮らしを取り戻す◆人々が火をおこし、木の実を食す知恵と技を心得ていた時代は、山に上がれば1年や2年、お金がなくても暮らしていける気楽さがあった。それが地域に生きる安心感だったのだろう◆地方の消滅が叫ばれ、政府が「地方創生」を掲げて5年。春には第2期戦略が始まる。雇用、移住、子育て…どこも判で押したような対策が、住民の安心につながる成果を出せただろうか。ポツンと生きるテレビの向こうに、自分たちの未来を重ねている―実はそれが人気の理由だとしたら悲しくもある。(桑)

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