北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が昨年末に開いた党中央委員会総会で演説し「新たな戦略兵器」の登場を予告、米国との対話継続に含みを残しながら「衝撃的な行動」に出ると表明した。

 危機感を前面に押し出し、揺さぶりを強める瀬戸際戦術を再び駆使しようとしているようだが、今こそ米国との対話という機会を生かす姿勢が必要だ。

 金委員長は演説で「核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験を中止したにもかかわらず、米国は大統領が中止を公約した米韓合同軍事演習を実施、追加制裁を重ねてきた」と米国への不満を吐露し、「これ以上、一方的に公約に縛られる根拠はなくなった」と述べ、核実験再開などがあり得ることを示唆した。

 しかし、2年余り続けている核実験とICBM発射のモラトリアムは、もともと国連安全保障理事会の制裁決議で繰り返し禁止がうたわれてきた。モラトリアムを続けているからといって見返りが期待できるものではない。国際社会から見れば当然の措置である。

 北朝鮮に求められているのは、非核化に向けた具体的な取り組みだ。寧辺を中心とする核関連施設での活動凍結や、ウラン濃縮の停止などが不可欠なのだ。

 だが金委員長は「朝鮮半島に恒久的な平和体制が構築されるまで戦略兵器開発を進める」と明言し、非核化とは逆の方針を提示した。これでは、2018年6月に実現した初の米朝首脳会談で自ら署名したシンガポール共同声明にも背くことになる。

 こうした強硬な立場を示しながらも、金委員長は「核抑止力強化の幅と深さは米国の今後の立場によって調整される」とも語った。注目される発言だ。

 金委員長は昨年4月の最高人民会議(国会)で行った施政演説で米国に態度変化を要求、昨年末までに打開策を示すよう迫っていたが、事実上、期限を区切らず対話を続ける意向を示したとみられるためだ。

 「新たな戦略兵器」より、対話継続によって米朝相互の誤解や溝を埋める努力が求められる。北朝鮮は今秋の米大統領選をにらみながら米国から最大限の譲歩を引き出そうとしているのだろうが、トランプ大統領が外交面で動ける期間は限られている。駆け引きの時間は多くないことを認識すべきである。

 総会では、制裁圧力により経済が低迷している現状についても取り上げられた。「今後も敵対勢力の制裁下で生きていかねばならず、内部の力を強化する必要がある」と指摘した金委員長は「正面突破せよ」と20回以上にわたり力説した。

 厳しい経済事情をもたらした要因は何なのか。なぜ制裁圧力が強まっているのかを冷静に考え直すべきだろう。

 一方、4日間にわたった総会では、日本や韓国への言及が全くなかった。対米交渉が最大の課題となっていることをうかがわせるが、日韓とも危機的状況が再現されることをただ眺めているわけにはいかない。

 特に今夏、東京五輪・パラリンピックの開催を控える日本にとって、朝鮮半島で一触即発の事態が展開されることは避けなければならない。米朝間の対話を促し、日朝対話再開にもつなげる努力が求められる。(共同通信・磐村和哉)

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