正月の食卓にのぼるナマコ。米俵を連想させる縁起物だ。ネズミにも似ているので「鼠(ねずみ)」の字が使われる。〈世の中をかしこくくらす海鼠(なまこ)哉(かな)〉。正岡子規の句はあくせくせずに生きるナマコを称賛する◆東京工業大学名誉教授の本川(もとかわ)達雄さんはナマコ研究40年というナマコの達人。その暮らしぶりを紹介した本川さんの著書を読んだ。ナマコは砂の上にごろんと転がっているか、砂に埋もれている。そして砂をかんで暮らしている。砂の表面に有機物が集まった薄いフィルムがあり、これを食べる◆何しろ省エネ。砂は逃げないので、うろうろ動き回る必要もない。だから筋肉もたいして必要ではなく、心臓もない。とにかくエネルギーを使うことが少ない。体中に毒があるので、ほかの動物に食べられることもない。ただし、この毒は人間には無害である◆本川さんは「砂をかむような人生。どこがいいの」という言い方もできるが、よくよく考えてみると現代人はせっせとエネルギーを使ってどんな生活をしているのでしょう? と問いかける。忙しく駆け回って本当にやりたい仕事をしているのか。自分の脳で考えているか。ナマコに脳がないとばかにしていないか◆膨大な資源を使う社会をつくり、欲しいと思ったらすぐ手に入れる。そんな人間の生活にナマコは警鐘を鳴らすかのようだ。(丸)

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