正月になると自宅の庭に一羽の小鳥がやってきた。前の年も、その前の年も。盲目の箏曲家(そうきょくか)宮城道雄は、その小鳥が同じ鳥だと知っていた。鳴き声で分かるのだ。その声に「今年も正月を祝っている」とうれしいような懐かしいような気持ちになった◆8歳で視力をなくした宮城は「子どもの頃、どんなに悲しかったかしれない」と随筆に書いている。しかし、箏(こと)を習い始めてから、次第に目が見えないことを苦にしなくなった。風の音、雨の音、虫の音(ね)、小鳥のさえずり。普通の人には聞こえないような遠い音も、かすかな音も聞き取れるようになった◆それは光や色に触れることができない寂しさを十分に満足させることができた。宮城は箏を唯一の友として生き、「迷ったりする余地はない。ただまっしぐらにこの道を進んでゆこう。人生を少しでも良く生きてゆこう」と誓う◆彼の作曲した『春の海』。近代日本音楽の代表曲として名高い。正月になるとテレビなどで流れるおなじみの曲だ。瀬戸内海の波の音、船の櫓(ろ)をこぐ音を箏と尺八の調べに織り込んだ。新年を告げる日本人の心の調べといっていい◆2020年が明けた。令和最初の正月である。願わくば穏やかな年であってほしい。そして時にはスマホを見つめる目を休め、虫の音、小鳥のさえずりを感じる静かな心を持ちたい。(丸)

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