時々診察室を訪れる3歳のY君、今日は熱とせきでやってきました。「いつもと違ってせきだけではなくて呼吸が苦しそうです」とお母さん。聴診器で胸の音を聴くと喘鳴(ゼイゼイ音)があります。熱は3日目で、せきもひどくて元気もないようです。単なる上気道感染(感冒)ではなく、気管支炎や肺炎を疑いました。耳たぶから少し血を取らせてもらい、胸のX線写真を撮影すると、やはり軽い肺炎を起こしていました。血液検査は細菌性ではなくウイルス感染が推定される結果でした。ぜんそくの病歴のない子がかぜをひいて喘鳴があるときは、RSウイルスかヒト・メタニューモウイルス感染の可能性を考えます。これらの呼吸器感染症には季節性があります。(晩秋のRS ウイルスに始まりインフルエンザがはやり、それから春にかけてhMPVが流行することが知られています。最近はその季節性がくずれつつありますが…)。喉からぬぐい液を採取して迅速検査を行ったところ、結果は陽性でした。

 hMPVは世界中に広く存在するウイルス感染症で2001年に同定されました。感染力が強く、こどもの呼吸器感染の5~10%がhMPVによるというデータがあります。RSとは近縁のウイルスで臨床症状も比較的似ています。ただし、RSは新生児を含め乳児にひどい症状を起こしますが、hMPVは生後6カ月頃から見られるようになり、RSよりは年齢の高い子が重症になる傾向があります。5歳までに大多数の子が一度は感染し、一度の感染では完全な免疫ができないので繰り返し感染します。Y君は少しひどい症状になりましたが、このウイルスに対する特効薬はないので、たんを溶かして出しやすくする薬、せき止め、気道を開く薬を処方して、しっかり水分を取り、食事もきちんと取り、安静にさせることをお願いして外来診療で様子を見ることにしました。幸い、それ以上悪くなることもなく、1週間後にはほぼ普通の生活に戻ることができました。

 

浜崎 雄平(はまさき ゆうへい)
佐賀整肢学園 からつ医療・福祉センター顧問。佐賀大学名誉教授。
1948年、鹿児島県日置市生まれ。九州大医学部を卒業し、テキサス大やオクラホマ大研究員などを歴任。
84年から佐賀医大(現佐賀大学医学部)小児科講師として勤務し、00年に同大小児科学教授就任、09年から医学部長を兼任する。
14年から現職。専門分野は小児の呼吸器/循環器疾患,アレルギー疾患。

 

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