与党が企業減税を柱とした2020年度税制改正大綱をまとめた。第5世代(5G)移動通信システムの普及を目指す法人減税は、世界規模で競争が激化する通信分野で日本企業が米中などのIT大手に対応できる力をつけるための措置で、時宜を得たものと言えるだろう。

 一方で、内部留保を活用したベンチャー企業への出資を促す減税については、妥当性や実効性の観点から疑問を抱かざるを得ない。

 安倍政権はこれまでも一貫して法人税率を引き下げるなど企業負担を軽減してきた。その成果は、企業業績の向上基調に表れている。それに比べ、従業員の給料は伸び悩んだままだ。日本経済の弱点はこの部分だ。

 企業が潤う一方で、従業員の生活水準がそれに伴って上がらない経済はバランスを欠く。長期的には企業の安定性、持続性などをむしばむことにつながる。消費の低迷が長引けば、経済社会の活力も失われる。これを是正することが先決だったのではないか。

 しかし、今回は個人の生活に大きく影響する所得税についての議論は深まらず、主に富裕層が持つとみられる金融所得・資産への課税強化なども見送られた。

 配偶者と離婚・死別したシングルマザーらのひとり親と同等の税制上の支援を受けられなかった未婚のひとり親に対する不平等は、今回、解消されることになったが、もっと包括的に所得・資産の多寡などに応じた個人の税負担の調整を目指すべきだ。具体的な制度改正には時間がかかるだろうが、少なくとも、基本的な認識と、所得再配分による格差是正に向けた大まかな方向性を打ち出すべきだった。

 この観点から言うと、内部留保は企業の出資よりもむしろ賃上げの原資に向かわせるべきではなかったか。現在でも賃上げしたら減税を受けられる制度はあるが、これをさらに強化する方が、日本経済に好循環をもたらす道につながるはずだ。

 制度設計にも、少し無理があるように思われる。与党が目玉としているのは、ベンチャー企業などに出資した際に、課税対象となる「所得」から出資額の25%を控除し、法人税を軽減する優遇税制だ。デジタル技術や人工知能(AI)などは、自社で一から育成するより、技術を持った企業を買収した方が合理的な場合もある。

 しかし、投資や出資など経営戦略上の重要な判断は、対象企業・事業の将来性や自社との相乗効果などが最も重要な論点になる。税負担も多少は考慮するだろうが、一般的には減税してもらえるから投資しようとは考えない。既に投資・出資計画がある企業には朗報だろうが、期待するほどの効果を生むだろうか。

 さらに付け加えたい。消費税を素通りしたのは、どういうことか。全世代型社会保障改革の議論が進んでいるが、これは今後、消費税とどう向き合っていくかという財政改革と直結している。

 年々膨らむ社会保障経費の財源として、景気の現状も踏まえて、現時点で消費税に対する考え方を整理するのが、与党税制調査会の役割だろう。

 安倍晋三首相が今後10年間の税率引き上げの必要性を否定したことが、消費税の議論を封じているのだとしたら、与党は責任を放棄したと指摘せざるを得ない。(共同通信・高山一郎)

 

このエントリーをはてなブックマークに追加