日米貿易協定が国会で承認された。日本に不利な内容の疑いがあるとして、野党は協定に関する情報公開などを求めてきたが政府は応じず、与党が参院本会議で押し切った。2020年1月1日に発効し、関税が引き下がって競争力を増した米国産牛肉などが日本市場に入ってくる。

 協定は、米国による自動車に対する追加関税発動の余地を残し、日本が米国に輸出する自動車、自動車部品についての関税が撤廃されるかあやふやなままだ。

 このままでは国民の不安、不満は解消されず、将来に禍根を残すことになる。政府はこうした疑念について、改めて米国に念押して確約を取った上で、正式な文書にまとめ公表するべきだ。

 両国間で合意しているのであれば、内容を明らかにすることは何ら支障ないだろう。特に自動車関税についての取り決めは協定の肝の部分だ。日米両国にとって「ウィンウィン(相互利益)」の協定だというのなら、政府はその根拠を提示しなければならない。

 問題山積の貿易協定なのに、政府の思惑通りのスケジュールであっさり承認された印象だ。与党議員の数の力はいかんともし難いが、貿易協定の国会審議は、野党が「桜を見る会」問題で攻勢を強める中で進んだ。野党は、この問題をてこにして、疑問点に対するさらなる追及につなげたり、一段の情報公開を迫ったりする国会戦術も採り得たのではないか。力不足は否めない。

 世界貿易機関(WTO)ルールに基づく多国間交渉を通商政策の基本とする日本が米国との2国間交渉に応じ、協定を結んだ最大の目的は、自動車に対する追加関税を回避することだったと言っていい。

 しかし、今回の協定には「協定を履行している間は、声明の精神に反する行動は取らない」と記載されているだけで、米国は追加関税を発動しないとは明記されていない。安倍晋三首相はトランプ米大統領と確認したと強調、「首脳間の約束は極めて重い」とするが、トランプ氏が将来にわたって追加関税は発動しないと明言したのかは不明だ。さらに言えば、同氏は対中国交渉などで前言を翻すことはままあった。

 協定には「安全保障上の重大な利益の保護のためには必要な措置の適用は妨げない」との記載もある。米国が安保上、必要と判断すれば発動できると読むことも可能だ。米国が安保上の脅威を理由として、日本の鉄鋼とアルミニウムに関税を上乗せしていることは忘れてはならない。

 自動車と関連部品の関税について政府は撤廃が前提と強調するが、協定は「撤廃に向け引き続き交渉を続ける」と記載しているだけだ。にもかかわらず政府は、この撤廃を経済効果に反映させ、国内総生産(GDP)が0・8%押し上げられるとの試算を公表した。無責任な対応と言うしかない。

 米国は今後、サービス貿易などを含む自由貿易協定(FTA)に突き進み、自国に有利な形での日本市場の一段の開放を求めてくるだろう。今回の協定は、最大の目的だった自動車の追加関税を防げないどころか、さらに米国から押し込まれる結果につながる恐れもあると言わざるを得ず、国益を大きく損ねた失政として経済史に残る可能性すらある。(共同通信・高山一郎)

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