佐賀の女性の働きやすさ生きやすさ

今や女性にとって「働くこと」は「生きること」。
データによれば、佐賀県の共働き率は全国10位の53.8%(2017年総務省 就業構造基本調査)。
一方で、女性の50歳以上未婚率は13.7%で全国21位(国立社会保障・人口問題研究所 人口統計資料集2018)。
これらはともに上昇傾向にあり、働く女性たちの増加を示唆しています。
では実際、彼女たちはどんな気持ちを抱いているのか。
「オンナゴコロ見聞録」でおなじみのライター・有馬ゆえさんが来佐。
異なる立場の6人の女性に話を聞きました。

Writer
有馬 ゆえ Arima Yue

東京生まれ、東京育ちのフリーライター。夫と4歳の娘との3人暮らし。2014年~佐賀新聞Fit ECRUにてエッセー「オンナゴコロ見聞録」を連載中。

 

 

"Interview 01"

旧来の価値観に縛られず、自分らしく生きる
そのためにフリーランスの道を選んだ

Sさん 52歳/フリーランス/独身/九州在住

 Sさん(仮名)は九州在住の独身女性。専門職のスキルを生かし、九州各地を飛び回るフリーランスの52歳です。Sさんは大学を卒業して以降、一度も組織に所属せず、キャリアを積んできました。その背景には、九州で女性が自分らしく生きる困難さがあったと話します。

 「私は仕事が好きだし、正当に評価を受けたいと思っています。しかし九州では、女性がそれを求めるのはとても難しい。女性よりも男性の方が、また年長者ほど権力を持つといった、昔ながらの上下関係が根強い土地だからです」

 Sさんは、九州は性役割による分業意識もまだまだ強固だといいます。男性は仕事をして一家の大黒柱になり、女性は従者として家庭の中でケア労働をする―こうした旧態依然とした価値観が、同世代以上の年代には内面化されているというのです。

 しかし、男性と同じように仕事で評価されたいというのは、Sさんにとって自然な願望でした。というのも、Sさんの両親は共働きなうえに、母親は管理職として企業に勤務し、父親は「子どもを産む以外なら、すべて自分にもできる」と言ってはばからず、家事、育児に励んだ人。親戚や近所にも、共働き家庭、独身のまま仕事を続けて還暦を迎えた女性、夫が専業主夫という家庭がありました。

 「大人になってわかりましたが、それは世の中の価値観とかけ離れていたんですよね。旧来の価値観に問題意識を持っていると、周囲からはみ出してしまうのが九州。だから、私は組織に所属しない道を選んできたのだと思います。そうしないと、自分らしく生きられませんから」

 同時に、仕事の場では女性たちに働きかけることもしてきました。

 「企業や自治体の会議に出席すると、男性が議長を務めていた場合、女性がほとんど意見を言わないんですよ。男性を立てておとなしくしているのが美徳だという考えがすり込まれているのだと思うのですが、一方で仕事を放棄しているともいえる。私が議長をさせていただく機会には、やんわりと女性全員に話を振ることにしています」

 年下、特に若手の女性たちと話す際には、九州の厳しい現実と、その乗り越え方も伝えます。彼女たちが壁を越えない限り、やがて社会に出る10代以下の女の子たちもまた、苦しい思いをし続けなければいけないからです。

 「若い女性たちには、社会は平等ではないと話します。頑張る女性ほど悔しい思いをするから、つらいときは自分を誇りに思ってほしい。誰かに『頑張ってるね』と褒められたら『はい、頑張りました』と言いなさい、と。謙遜しなくても、そもそも女性は頑張りを評価されにくい立場ですから」

 男女の多様な生き方を見てきたSさん。とはいえ同世代には、仕事で十分に自分の能力を生かしきりたいと考える女性は限られています。

 では、Sさん自身はご自身のこれからについて、どう考えているのでしょうか。

 「もう50代なので、老後を見据えて今後を考える必要があります。一人では生きていけませんから、協力し合って生きる仲間作りは、これまで以上に切実な問題です」

 価値観の合う異性がいれば、結婚もあり得る。ただし、一人のパートナーに依存するのではなく、同世代によるコミュニティーを模索する必要がある、とSさん。たとえパートナーができたとしても、死別してしまえば一人で生きることになるのには変わりがないからです。

 「いまある老人介護施設に魅力を感じないので、自ら居場所作りをしないとと考えています。具体的には、同志を集めて、九州のどこかでコミュニティハウスを作りたい。『ぽっくり死ぬからいいわよ』とおっしゃる方もいるけれど、ぽっくり死ねるとは限らない。子どもがいたとしても、おんぶに抱っこでは無責任でしょう。いかに幸せな将来を作っていくか、老人は若者よりずっと深刻に考える必要がある。同世代と共存して幸せな老後を過ごせるよう、働きかけていきたいですね」

 

 知的な笑いで場を和ませつつ、自身の半生について語ってくださったSさん。東京よりも「結婚して家庭に入る」ことが当たり前の九州にあって、結婚にこだわらず、また仕事に生きがいを持ち続けて生きるには、想像以上の困難があったのではないでしょうか。常識に甘んじることなく立ち向かっていくSさんは、一人の革命家にも見えます。自らのポリシーを貫く勇気と、他者との対話を諦めない根気強さには、ただただ尊敬するばかり。また、「自分らしく生きるために組織から離れてフリーランスになった」という話を聞き、佐賀県に起業して事業を立ち上げる女性が多い理由もわかった気がしたのでした。

 

"Interview 02"

家庭の中だけで自分の人生を終わらせたくない
仕事は、子どもも夫も知らない、自分だけの世界

山田美乃里さん 38歳/ワーキングマザー/既婚/佐賀県在住

 山田美乃里さんは、佐賀市在住のワーキングマザー(以下、ワーママ)です。夫、中学1年生の息子、自身の両親とともに暮らす38歳。16年前、新卒で就職して以来、松尾建設株式会社に勤務しています。出産したのは13年前のこと。産休・育休制度はあったものの、時短勤務や育休の延長制度はありませんでした。

 「当時、女性社員は結婚や出産を機に退職するのが当たり前という風潮でした。ただ、私は上司が結婚式で『結婚後も仕事を続けてほしい』とスピーチしてくれたこと、自分の両親が共働きだったこともあり、迷わず産休・育休を取得して正社員として復帰する道を選択。産休・育休を取る女性社員は、他部署にはいたものの、部署内では私が初めてでした」

 産後、山田さんは息子を6カ月から小規模保育所に入れ、正社員として復帰。夫や同居している両親によるサポートもあり、「仕事と育児との両立には恵まれた環境だった」と振り返ります。しかし、山田さんが従事する建設業は“男社会”のイメージ。基本的に残業はできず、子どもの急な発熱や感染症で早退、欠勤もしばしばというワーママの働き方について、理解を得られない場面もあったのでは?

 「多々ありました。男女を問わず、子育てに携わっていない人には、子育てと仕事を両立する生活って想像できないですよね。異なる環境の人たちに冷ややかな視線を送られることもありましたし、逆に理解のある男性上司には何度も救われました。また社内では、私より先に産休・育休を取得していた違う部署の女性社員が、心強い相談相手となってくれました」

 一方で山田さんは部署内でよい“前例”に。彼女の背中を追うように、結婚、出産後も仕事を継続する女性社員が増えたのです。彼女たちの姿を見て、山田さんはあることに気づきます。

 「家族ができて時間に制約がかかると、隙間時間を有効活用したり、物事の優先順位をつけたりするのがうまくなるんだな、と。実際、他と同じ仕事量をこなしていても、残業時間が短い人も多かった。ワーママは、思い通りに動かない子どもの相手をしているせいか、人との接し方もうまくなるように感じました」

 育児と仕事を両立する難しさを周囲に理解してもらうには、どうしたらいいのか? そう考えた山田さんは、乳幼児の体調の崩しやすさ、ワーママたちの時間のやりくりのうまさ、既婚者女性を雇うメリットなどを少しずつ啓発。近年は、ワーママ向け、女性部下を持つ上司向けなどのスキルアップセミナーへ社員たちが参加できるよう、会社への働きかけもしているそう。さまざまな立場の人たちが働きやすい職場にしたいと考えているのです。

 「かつては、私なんかに何が変えられるんだろうと思っていました。でも声を上げることで、少しずつ社内の意識は変化している。平成22年に時短勤務や妻の出産休暇、育児休暇の延長が制度化され、男女ともに子育てにコミットしやすい環境が整いはじめています」

 昨年からは、社の推薦で“女性の大活躍推進佐賀県会議”にワーキングメンバーとして参加。「異業種の輝く女性たちを見ると、ロールモデルにしたいし、自分にできるアウトプットはなんだろうと考えさせられます」。最後に、山田さんが仕事を続けている理由を聞いてみました。

 「家庭の中だけで自分の人生を終わらせたくないからです。仕事は、子どもも夫も知らない、自分だけの世界。30歳前後までは認められたいという気持ちで仕事をしていましたが、いまは社内への貢献にやりがいを感じています。社内だけでなく佐賀全体が、男女にかかわらず個々の生き方を尊重できる社会になればいいなと思っています」

 

 一見、柔和で控えめな印象の山田さん。しかし、取材を進めるにつれ見えてきたのは、その裏にある思慮深さと芯の強さ、ほとばしる情熱。何より想像以上のバイタリティーに驚かされました。仕事に育児に忙しいはずなのに、理解されない状況に腐らず、職場環境が変わるよう働きかけることは、簡単なことではありません。山田さんのような勇気ある女性が、少しずつ佐賀の社会を変えていくのだろうと未来に一筋の光が見えた気がしました。「声を上げられない人もいる。そういう人は声を上げる人に意見をくれるだけでもいい」と山田さんが話していたのが印象的でした。同じ立場の女性が連携し合うことで変わることって、きっとあるはずですよね。

 

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