東京・池袋で4月、暴走した乗用車に母子がはねられ、死亡した事故で、警視庁は先に自動車運転処罰法違反(過失致死傷)容疑で運転していた旧通産省工業技術院の飯塚幸三元院長を書類送検した。元院長は88歳。事故後、都内では高齢者による運転免許証の自主返納が急増。半年間で約3万7千人に上り、昨年同期の倍近くになった。

 後を絶たない高齢ドライバー事故を巡る対策の柱は、2017年3月の改正道交法施行で強化された75歳以上の認知機能検査。3年に1度の免許更新時に検査で認知症の恐れありと判定された場合には医師の診断が義務化された。最終的に認知症と診断されると、免許取り消しなどになる。

 しかし飯塚元院長は17年に認知機能検査と高齢者講習を受け、結果に何ら問題はなかった。元院長のように検査をパスしても、その後に機能が急激に低下したり、体調が急変したりするなどし大きな事故につながった例は少なくない。専門家からは、認知機能検査一本やりでは対応し切れないとの指摘も出ている。

 政府は75歳以上のドライバー向けに、自動ブレーキなどを備えた車種のみを運転できるようにする限定免許制度の導入を検討しているが、その一方で、運転能力を健康状態なども含め、あらゆる角度からチェックできるよう検査の拡充を進めることが求められよう。

 警視庁の調べでは、飯塚元院長は時速50キロほどで走行していたが、左カーブでバイクや車を追い抜こうとして急加速し、縁石に接触しながら時速90キロ台後半で横断歩道に突っ込んだ。母子2人が亡くなり、9人が重軽傷を負った。「パニック状態になり、ブレーキとアクセルを踏み間違えた可能性もある」などと元院長は説明している。

 乗用車のドラブレコーダーには事故現場の約200メートル手前からエンジンがうなりを上げ続ける音や、元院長の「ああ、どうしたんだろう」という声が記録されていた。

 警視庁は元院長が入院し逃走や証拠隠滅の恐れもないため、任意で捜査。暴走は故意ではないなどとし、危険運転致死傷罪は適用しなかった。

 元院長は大きな事故歴はなく、免許更新時に記憶力や判断力を確認する認知機能検査も問題なく終えていた。ただ警察庁によると、18年に死亡事故を起こした75歳以上のドライバー414人のうち、210人はこの検査で「認知機能低下の恐れなし」と判定された。

 もともと認知症は「認知機能正常」「軽度認知障害」と徐々に進行。明瞭な境界がなく、1度の検査で判断するのは困難といわれている。しかも事故には認知症だけではなく、運動能力の衰えや体調の悪化などさまざまな要因が絡んでくる。

 元院長は片足の具合が悪く、通院。手足の震えや筋肉のこわばりが起きるパーキンソン症候群と似た症状もあり、医師から「運転は許可できない」と言われ、最近は車庫入れに手間取る様子も目撃されていたという。

 80歳以上で違反や事故を繰り返すドライバーに運転免許試験場で実車試験を実施する案もあるが、認知機能検査と同じようにカバーできない部分が出てくる恐れは否定できない。家族やかかりつけ医、ケアマネジャーなどドライバーの周辺からも情報を得て、運転能力を総合的に判断する仕組みを整えていきたい。(共同通信・堤秀司)

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