講演する精神科医の松本俊彦さん=10月8日、佐賀県庁

子どもの自傷行為などに関する講演は、児童福祉施設や支援機関の職員ら約80人が聴講した=10月8日、佐賀県庁

 覚醒剤など違法薬物の依存症が社会問題となる中、依存症とどう向き合い、患者の回復をどう支援するかが課題になっている。厳罰による抑止を求める声がある一方、病気の治療を最重視し、患者への差別や偏見をなくす社会づくりを訴える声もある。

 講演のために来佐した国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の精神科医で、治療の最前線で薬物依存症の患者と向き合っている松本俊彦さん(52)=佐賀医科大出身=に話を聞いた。

 -患者を取り巻く社会の現状をどう見ているのか。

 いま全国のあちこちで患者の回復を支援している民間団体ダルクへの反対運動が起こっている。いたる所に「反対」の張り紙がある町を通り、薬物依存からの回復を望む人がダルクに通っている。その先に希望は見つからない。

 薬物依存症の人と面識がある国民は少なく、多くがその実態を知らないのに、ダルクの反対運動が起こる。約30年前に民放連がやっていた啓発キャンペーン「覚醒剤やめますか、それとも人間やめますか」の影響も考えられる。

 -学校現場の薬物乱用防止教育はどうか。

 子どもの薬物乱用防止ポスターには、薬物依存症の人がゾンビのように描かれ、「やっつけろ」などの文字が踊る。化け物のように描いて排除し、「薬物に手を出したらいじめてもいい」という感じだ。差別意識や偏見が植え付けられ、薬物依存症の人たちと共生できない社会になっている。

 20年ほど前、中学生向けの薬物乱用防止講演を依頼され、ダルクのスタッフに体験談をお願いした。彼は快諾してくれたが、学校からは「依存症から回復できると子どもが知れば、薬に手を出す」と拒否された。

 -薬物依存症の人はどんな問題を抱えているのか。

 違法薬物の経験がある人の割合は米国が49%で、日本は2・4%。日本で薬に手を出す子どもの中には、親がアルコールやギャンブルの問題を抱えているケースもある。「親がけんかをするのは自分が悪い子だから」と自分を責め、本当に悪い子になってしまう。

 「それは親の問題であって病気。君が悪いからじゃない、解決策がある」と教えることが、一番の薬物乱用防止教育だ。彼らに薬を差し出すのは、ポスターにあるゾンビのような人たちではない。どんな大人より話を聞いてくれて優しく、初めて自分の存在価値を認めてくれた人が「友達になろう」と勧めてくる。

 他人に認められてこなかった子、やっと見つかった相手との関係性を守りたいと思っている子は断らない。女性の中には、昔の性暴力被害のフラッシュバックに対処するために薬を使ってしまう人もいる。予防も大事だが、予防できない人たちの事情を考える想像力を持つ必要がある。

 -治療の最前線から訴えたいことは。

 現行の薬物乱用防止教育で、薬物の問題に関わらず「コミュニティーのルールを破ったら、いじめても構わない」という価値観を教えてはいないか。

 防止策を進める一方で、依存症から回復しやすい社会づくりを進めるための啓発も必要だ。依存症になってしまった人たちが、頑張って回復したくなるような社会を望みたい。

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