日本や中国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)、インドなど16カ国が、アジアを網羅する広範な自由貿易圏を目指す東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉は、インドを巡る調整が不調に終わり、目標だった年内妥結を断念した。

 孤立を深めるインドを取り込むことは容易ではないが、RCEPが失敗に終われば、自由貿易拡大に向けた国際的な潮流の勢いが大きくそがれてしまう。自国第一主義の米国が保護主義に突き進む中、結果として、その横暴を許容することになる。

 そうなれば、各国が失うのは貿易上の恩恵だけではない。地球温暖化や移民・難民問題などの解決に不可欠な国際協調がさらに弱体化する事態につながりかねない。各国の指導者には、そこまでの危機感を持って交渉に臨んでほしい。

 しかし、中国との貿易で多額の赤字を抱え、大幅な市場開放に慎重な姿勢を強めるインドに、さらなる赤字拡大につながる関税削減をのませることは困難との認識が参加国の間で広がってきた。

 さらに、インドを除く15カ国による妥結を模索する動きも出てきたことは気掛かりだ。

 RCEPは世界の人口の5割、貿易額と国内総生産(GDP)でそれぞれ3割を占める巨大な経済連携だ。インドを欠けば協定の規模が大きく縮小し、その分、自由貿易の恩恵も減じられ、RCEP自体の魅力も損なわれる。

 その場合は、妥結のために自国の関税を削減しようという各国の取り組みにも水を差すことになる。インド不在の協定の中で、中国が突出した影響力を持つ事態も避けなければならない。

 こうした状況を考えるとインドの参加は不可欠と言えるが、インド高官は現在の条件では「RCEPに参加できない」と表明した。焦って交渉参加維持を要請してもこじれるだけだろう。

 少し時間を置いた上、再考を促すべきだ。その説得の任には日本が当たりたい。日本とインドの関係は良好だ。さらに日本は、米国を除く11カ国による環太平洋連携協定(TPP)を主導、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)も成し遂げた実績がある。多国間通商交渉のノウハウも豊富だ。

 インドは経済情勢が悪化し、政権は国内の反対意見に配慮せざるを得ない立場に立たされているが、RCEPがインドが強みを持つIT分野の輸出拡大につながれば、打撃を受ける産業の痛みを補うことも可能だ。

 一時的な経済状況に振り回され、千載一遇のチャンスを逃してしまえば、長期的には失うものの方が大きいのではないか。国際的な貿易状況なども踏まえ、こうした見方を伝えることも重要になるだろう。

 どうしても国内情勢が許さないということなら、短期間に限定したインド向けの例外措置も浮上するかもしれない。

 貿易交渉で条件の不平等はご法度だ。当然インド以外の参加国は反対するだろうが、RCEPの成功に不可欠なインドを交渉に引き戻すための手段として必要なら、検討課題から排除するべきではないだろう。

 インド以外の参加国にとっても、巨大市場であるインドが協定内に存在することは死活的に重要なはずだ。(共同通信・高山一郎)

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