この秋、佐賀県立九州陶磁文化館(西松浦郡有田町)で開かれている二つの展覧会に注目したい。

 一つ目は「今泉吉郎・吉博コレクション」展。肥前磁器研究家として知られた今泉吉郎氏(1906~93年)=西松浦郡有田町出身=と、その息子の吉博氏が2代にわたって収集した成果であり、江戸前期の有田焼を中心にした上質なコレクションだ。100点すべてを24日まで公開している。

 陶磁器ファンにとっては、父の吉郎さんは本名よりも「今泉元佑(げんゆう)」のペンネームのほうが知られているだろう。著書『古伊万里の染付 その真実の探求』など、数多くの研究成果を残しているからだ。

 今回、吉博氏の意向で寄贈された100点には、その著作で取り上げた作品24点も含まれている。

 例えば、有田焼の「染付雲花唐草文輪花皿」は、裏に「肥前年木山」の銘がある。銘に産地の名前を入れるケースは、この当時の有田焼ではほとんど見られない。

 それも、年木山という地名に特別な意味がある。酒井田喜三右衛門が初めて色絵を試みた土地として文献に残る地名であり、現在の柿右衛門窯に連なる窯で作られた可能性も指摘されている。

 この貴重なコレクションが散逸することなく、まとまった形で寄贈されたのは大きな意義がある。

 ただ、現在はお披露目展として100点すべてが一堂に展示されているが、今後、このコレクションを私たちが目にする機会はほとんどないだろう。

 というのも、九陶の展示スペースは、その収蔵点数に比べて圧倒的に不足しているからだ。

 九陶の収蔵点数は、2万7千点を超える。約1万点を占める「柴田夫妻コレクション」をはじめ、ヨーロッパから里帰りした名品の「蒲原コレクション」などがあり、この圧倒的な収蔵点数は専門博物館としての強みではある。

 だが、九州陶磁文化館が1980年に開館してから40年近くが流れた。わずか50点の収蔵品からスタートしたというが、ここまで膨らんだ収蔵品をいかに活用していくかが課題だ。いかに展示スペースを確保するか、考える時期を迎えているのではないか。

 もう一つ、今泉コレクション展と並び、現在開催している企画展も意欲的な試みだ。東京五輪・パラリンピックのエンブレムを手がけた美術家・野老(ところ)朝雄氏とコラボした「有田×野老」展(24日まで)である。

 世界が注目する旬のデザイナーが、新たな有田焼を生み出した。野老氏自身、「後で振り返った時に、ここから何かが始まったとされる展覧会にしたい」と語っていたが、野老氏の自由な発想に、有田が誇る高い技術力がしっかりと応えている様子が見て取れる。

 単に過去の作品を並べるだけでなく、有田焼の可能性を探る-。その未来志向の発想は、専門博物館の新たな在り方を示したと評価できる。

 窯業が有田を支える産業として生き続けている以上、この展覧会の成果が、地域に還元されると期待したい。

 江戸前期の良質なコレクションと、今をときめくデザイナーの挑戦。ふたつの展覧会は、有田焼の未来と専門博物館の在り方を問いかけてくる。(古賀史生)

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