日本語には〈汎用性〉のある言葉が少ない。演出家の鴨下信一さんが『昭和のことば』に書いている◆あるパーティーでスピーチに立った米国の俳優は、まず場内をゆっくり見まわし「ビューティフル!」と一言。それだけで会場の雰囲気の良さ、来客の華麗さ、招待されたことへの感謝が伝わった。「汎用」とはいろんな機会に使えるということである◆そんな貴重な日本語の一つが「気持ち」という。「お気持ちはわかります」「気持ちのいい朝」「気持ちを新たに」「気持ちが悪くて吐いた」…辞書を繰ればさまざまな用例が見つかる。人間の内面に関する語義が多い中で、「ほんの気持ちばかりですが」と言えば、「わずか」という意味で世間的にはお金や物を指す◆菅原一秀経済産業相が入閣からわずか1カ月で辞任した。十数年前、地元有権者にメロンやカニを贈ったほか、先月には支援者の葬儀に香典を届けた疑惑を週刊誌が報じていた。有権者への気持ちの示し方が昭和の昔っぽい。関西電力の金品受領問題では厳しい姿勢を見せていた大臣である。自身の疑惑もきちんと語るべきだろう◆仏教の世界では、人の気持ちは光の17倍の速さでうつろうとか。こんなしたたかな川柳もある。〈くれる物もらって票は別の人〉。ほしいのは気持ちより志。もちろん「寸志」じゃないほうの。(桑)

 

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