行方不明者の捜索が続く宮城県丸森町の土砂崩れ現場。警察官が慎重にスコップで土砂を掘り起こしていた=16日午後1時2分

 豪雨のさなか、乗用車で避難しようとするドライブレコーダーの映像をニュース番組で見た。暗がりの一本道を用心しながら進んでいると、近くの河川から氾濫した水がまたたく間に道路を覆う。のみこまれた車は方向を見失って脱輪。水圧でドアを蹴破らないと逃げられなかった。自宅を出てわずか4分後のことだったという。

 東海から東北まで広範囲に河川の氾濫や堤防の決壊を引き起こした台風19号の死者・行方不明者は80人を超えた。8月末の佐賀豪雨でも痛感させられたことだが、自然の猛威にさらされたとき、いかにして命を守る行動を取るべきか、相次ぐ気象災害の教訓は重い。

 これまでに判明している犠牲者のうち、半数以上は浸水や洪水によるものだった。阿武隈川などが氾濫した福島県では浸水した家屋から高齢者が遺体で次々に見つかるなど、「災害弱者」が命を落としたケースが際立っている。台風の通過で風雨が最も強まったのが深夜だったため、逃げ遅れた人が多数いたとみられる。深刻な高齢化に直面する地方にとって、対岸の火事ではあるまい。

 今回の台風で気象庁は上陸の3日前から異例の記者会見を行い、「強い危機感」を表明。大雨を予想し特別警報も予告されていた。東北地方にはなじみのない「狩野川台風に匹敵」というアナウンスがあるいは、被害規模を想像しにくくしたのかもしれない。

 避難所に身を寄せるタイミングを逃した場合、「垂直避難」が最善とされるが、平屋住まいだったり、たとえ2階があっても足腰の弱った高齢者は1階部分を主な生活空間として使うケースが多かったりして、緊急時に上階へ逃げきれるか難しい部分もある。

 佐賀豪雨で浸水した地域の多くは自治体のハザードマップで洪水が想定された箇所だった。今回も長野市で千曲川が決壊しJR東日本の新幹線車両センターなどが浸水した一帯は、ハザードマップで最大10~20メートルの浸水が想定されていた。付近には県立病院や大型商業施設も立地しており、洪水の危険想定は結果的に、まちづくりにも生かされていなかった。

 おびただしい防災情報の中から、住民自身がどれほど切迫した状況に置かれているのか正しく理解し、できるだけ早く行動する重要性をあらためて肝に銘じたい。

 広域の豪雨が常態化しつつある今、国の治水計画の見直しを含めた抜本的な防災対策が迫られている。とはいえ、国と地方の借金が1千兆円にも上り、社会保障費が膨らむ財政状況下で、ハード面の備えを充実させるのは容易ではない。高齢化と人口減少が進む地域の実情に即した避難対策をいかに構築していくか。災害から命を守るのは、私たちのそんな気構えである。(論説委員長 桑原昇)

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