国際オリンピック委員会(IOC)が東京五輪のマラソンと競歩の会場を札幌市に移転させる検討に乗り出した。中東カタールのドーハでの世界陸上選手権で、暑さから両種目に途中棄権する選手が数多く出たことを重く見て、これまで一定の評価を与えていた東京都と大会組織委員会の計画では、五輪のイメージを損なう事態を招きかねないと不安になったようだ。

 IOCが強調する「選手第一」の考えは、東京都も組織委も共有している。選手により良い環境を整えるために札幌への移転以外、方法がないのなら、この構想は具体化の速度を増すだろう。

 それにしても、IOCの発表は突然だった。こうした計画の変更要望は通常、関係する国際競技連盟の医事委員会、あるいはアスリート委員会から出てくる。しかし、今回は国際陸連のそのような委員会が最初に声を上げた形跡はない。

 また、国際陸連がIOCに要望したものではなく、IOCが逆に国際陸連に提案したという。かなり異例な、トップダウンとも言える手続きだ。

 ドーハはこの時期、日中の気温が40度を超える。50度近くになる日もある。そのため、マラソンも競歩も真夜中にレースを実施した。それでも、女子マラソンと競歩の全種目は気温30度超という厳しい条件となった。

 来年の東京五輪は8月2日に女子マラソンが、8月9日に男子マラソンが行われる予定だ。今年の両日の気温は、レース開始の午前6時でそれぞれ27・7度と27・5度と、ドーハほどではない。

 東京都と組織委はこれまでIOCと協議を重ね、さまざまな暑さ対策を検討し、計画を固めてきた。路面温度の上昇を抑える遮熱性舗装を整備し、街路樹の枝葉を大きく育て木陰を増やす取り組みを進めている。大会中はさらに多くの日陰を作り出す工夫を凝らすという。

 観客への配慮では、日よけテント、大型冷風機、霧状の水をまくミストシャワーを整える。IOCは「日本でなければ、これほど細部にわたる計画はできない」とこれまでは評価していた。

 競技現場に目を移せば、日本陸連はマラソン代表選手をできる限り本番に近い環境で選考しようと、本番とほぼ同じコースで、先ごろ男女各2選手を選んだばかりだ。選手も陸連もいま、あの選考レースは何だったのかとの思いだろう。

 札幌への会場変更となれば、IOCが神経を使う国際映像制作をはじめ多くの課題が出てくるに違いない。新たに発生する経費もあるだろう。その対応と負担は誰がどのように進めるか。

 IOCは夏季五輪については全世界の放送権者の要望を尊重し、7~8月に開催する。マラソンと競歩は過去何度も暑い日に行われてきた。東京五輪の暑さは、本当に過去のどの大会よりも選手にとって危険で、許容できないほど過酷なものが予想されるのか。

 IOCは発表の前に、国際陸連のアスリート委員会の意見を聞くべきではなかったか。また、ドーハ世界陸上の事例だけでなく、科学的で合理的な会場変更の根拠を示さなければならない。

 これは極めて重要な問題だ。安易な妥協が入り込む余地はない。IOC、東京都、組織委がそれぞれの立場からそれぞれの主張を述べ、3者による完全な合意が必要だ。(共同通信・竹内浩)

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