混迷が続く国営諫早湾干拓事業(長崎県諫早市)の潮受け堤防排水門を巡る開門問題で、江藤拓農相は、裁判とは別に、開門派、開門反対派と同じテーブルについて協議することに前向きな姿勢を見せている。ただ、開門によらない漁業振興基金による和解を目指す国の方針を堅持した上での発言で、開門調査に前向きなわけではない。農相の協議参加は双方が同席する条件付きであり、開門に反対する長崎県側の態度は硬く、実現は見通せない。

 9月11日に就任した江藤農相は、10月2日、諫早市の干拓地を視察するとともに、佐賀、長崎両県の知事、漁業団体や開門派原告・弁護団、干拓営農者らと相次いで意見交換した。開門問題について、歴代の大臣は大半が現地を視察して双方と意見を交わしてきたものの、問題の解決には至っていない。両県訪問は新任大臣の半ば恒例行事となっているが、これをセレモニーとして位置付けてはいけない。大臣が現地に足を運ぶ意味は大きく、責任は重い。

 開門派の原告・弁護団が訴訟以外での「対話」を求める背景には、再三にわたる和解協議も決裂という同じ結果を繰り返してきた厳しい現実がある。

 開門派の後ろ盾は、2010年の福岡高裁で確定した5年間の開門調査を命じる判決である。営農干拓地への影響が出ないようにする対策工事のため3年間の猶予期間を設けていたが、長崎県側の反対でできず、13年12月の開門期限を過ぎた。国が確定判決に従わない異常な事態が続いている。

 確定判決を履行しない国に対する制裁金の支払いに関し国は強制しないように提訴し、福岡高裁は昨年7月、漁業権の消滅を主な理由に、開門命令の確定判決を事実上、無効化する判断を示した。その判決に対し最高裁は今年9月13日、破棄して福岡高裁に差し戻した。最高裁はその前に、別の訴訟で開門差し止めを認めた一審長崎地裁判決に対する漁業者の上告を棄却し、確定させている。それだけに、最高裁は非開門の流れに傾いているのではないかという見方がある。

 潮受け堤防が閉め切られて22年余り。開門と非開門の相反する確定判決が並立し、国の板挟みは続いている。

 今回、最高裁が高裁に差し戻したことについて、江藤農相をはじめ農水省は「司法の判断を尊重する」としているが、非常に違和感がある。司法の判断を尊重するという姿勢ならば、まずもって開門を命じた確定判決に従い、開門調査を実施することが筋道であろう。

 江藤農相は、農水副大臣時代にこの問題に関わり、佐賀、長崎両県の関係者とも会談を重ねて、いわば開門問題を熟知した大臣である。今月初めの会談でも、漁業者、営農者それぞれの思いを受け止め、心情に理解を示している。記者会見では「対話の回数を増やすことが解決の糸口になれば」と意欲をにじませてもいる。

 誰もが有明海再生を望み、農業も漁業も防災も成り立つ解決方法を探ることに異論はない。開門派、反対派がそろった協議がそのスタートであり、「解決の糸口」であろう。双方の事情を知る大臣として、佐賀とも長崎とも自ら対話を重ね、有言実行で全力を挙げる姿を見たい。(辻村圭介)

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