イノシシも出るという宮崎県延岡市のはずれ。ここのダイナマイト試験場で、ある研究者の〈人生を左右する大事な実験〉が行われていた。それは「新型電池」の安全性テスト。鉄の塊を電池に落とし、何が起こるか確かめようというのである◆いざ塊が落下して電池は破壊されたが、何も起こらなかった。〈もし火を噴いていたら研究はその時点で中断、リチウムイオン電池は世の中に出てこなかった〉と旭化成の研究者吉野彰さんが著書で振り返っている◆実験からおよそ35年。「持続可能な社会」へ必要なものは何か。それを小型で軽量な電池の開発で示した吉野さんがノーベル賞を受賞した。用途は電気自動車にも広がり、太陽光や風力など再生可能エネルギーを蓄えて化石燃料に頼らない社会を実現させつつある◆実験当時の吉野さんの造語がある。「三種の鈍器」。エジソンの時代から100年変わらず使われていた銀塩フィルム写真、レコード、ニッケル・カドミウム電池だ。それが一気にデジカメ、CD、リチウムイオン電池に換わった。次はどんな研究が暮らしを支えるだろう◆「壁にぶつかった時、何とかなるさという柔らかさを」と語る吉野さん。「まさかまさかでございます」と会見で気さくな笑顔を見せた。その明るさも困難な研究に取り組む若手の励みになりそうだ。(丸)

 

下記のボタンを押すと、AIが読み上げる有明抄を聞くことができます。

このエントリーをはてなブックマークに追加