流出した油が流れ込み、キュウリが全滅した鵜池幸治さんのビニールハウス。「もうここではできない」と漏らす=杵島郡大町町

 「油の流出は2度目。言い訳はできないはず」。杵島郡大町町中島のキュウリ農家鵜池幸治さん(34)は、全滅した約11アールのハウスを前に憤った。8月28日の記録的大雨による浸水で発生した佐賀鉄工所大町工場の油流出。「土壌検査の結果次第だが、ここではもう、自分自身が気持ちよく農業はできない」。ハウスの柱にも油が染みつき、臭いは取れていない。

 大町工場では1990年7月、県内を襲った豪雨で工場が浸水し油槽から油が流出、当時の佐賀新聞は「油六万リットル(ドラム缶約三百本分)が流出、付近1キロほどに広がった」と伝えた。

 同社では前回の事故を教訓に、油槽がある建物の数十センチかさ上げや重量シャッターの設置などの対策を取っていた。それでも今回は、建物内で最大約60センチが浸水。「想定(90年の水害レベル)を超える大雨で、対策が十分ではなかったと認識している」としている。

 大町町が2009年に作成した洪水ハザードマップは、「100年に一回程度」の大雨で六角川が氾濫した場合、工場がある地域は浸水深2メートル以上~5メートル未満を予想。今回は六角川の氾濫はなく、内水があふれたことによる浸水で工場付近は1メートル以上漬かった。

 国土交通省の関係者は「ハザードマップで浸水などの重大な被害が想定される場所にある事業所は、行政の指導監督を強化すべき」と問題提起する。「油だけでなく薬品などの危険物がどう保管、使用されているかを自治体が事前に把握し、必要があれば改善を促すことが大切」と指摘する。

 想定外の災害。2年前、滋賀県竜王町では同様の事故が起きていた。滋賀県などによると、2017年10月23日、台風による豪雨で川が氾濫し熱処理工場が浸水、ふたのない油槽から焼入油約1万8千リットルが流出した。住宅は高台にあったため浸水はなかったが、農地約42ヘクタールに油が広がった。

 農地は、石灰をまいて油を中和させるなどの対策を実施。土壌検査や発芽試験を行った結果、油の濃度が高かった農地約0・11ヘクタールの土が入れ替えられた。最終的に栽培再開は約半年後の翌年4月となった。

 竜王町は、被害を受けた地区の自治会に、見舞金として250万円を町の一般財源から支出、農家には農業共済も適用された。工場からも、自治会に300万円の見舞金が支払われた。

 また、工場浸水の予見とその回避が困難だったこと、工場の設置や管理に法令違反もなかったことなどから、事業者の落ち度は無かったとして、滋賀県では、国の災害復旧事業約187万円が活用されている。

 大町町の場合、油の流出は2度目で、被害は住宅まで及んでいる。水川一哉町長は「想定を超える雨だったとはいえ、過去の教訓が生かされたのかという疑問が残る。住民側の視点で対応していきたい」と話す。

 ハザードマップが示されたのは工場立地の約40年後。「50年に一度」レベルの雨が頻発する近年の状況を予見しておらず、「想定外に対応する難しさがある」と同社。一企業がどこまで対応すべきかという悩ましさもはらむ。

 同社は油槽がある熱処理炉の周囲を高さ90センチの鉄の壁で囲むなどの対策を取ったが、「想定外」も考慮し敷地の外周への自前での堤防設置の検討を始めている。

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