〈道路は濁流が渦(うず)を巻いていて、場所によっては一丈ぐらいの深さに達し、二階から救いを求めている家もたくさんある〉。81年前の1938年7月に起きた阪神大水害。住吉村(現・神戸市東灘区)に住んでいた谷崎潤一郞が、小説『細雪』にその様子を書いている。一丈というから濁流は3メートルにも及んだ◆阪神大水害は死者・行方不明が700人近くに上り、被害家屋は11万戸を超えた。豪雨による土石流が発生し市街地に流れ込んだ。〈六甲の山奥から溢(あふ)れ出した山津浪(やまつなみ)(中略)あたかも全体が沸々(ふつふつ)と煮えくり返る湯のように見える〉。神戸は人口の急増で山の中腹まで市街地が広がっていたのだった◆佐賀県内を襲った豪雨被害から、もうすぐ1カ月。被害総額は200億円近くになるという。一方、千葉県では台風15号で停電が続き、被災した家屋の修理で転落死した人もいる。ブルーシートを張った屋根が並ぶ映像が痛々しい◆そこへまた列島の広範囲を巻き込む台風である。復旧活動が急がれる中、作業に影響が出ないか心配だ。二次災害にも注意を払わなければならない◆『細雪』の災害の克明な描写は、谷崎が近所を歩いた見聞もあったが、多くは水害に遭った学校の生徒の作文が参考になったという。台風、豪雨が多発する今、子どもたちの体験を教訓として伝えていきたい。(丸)

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