日本人が初めて海外の文芸作品に登場するのは、中国唐代の876年に出版された伝奇集『杜陽雑編(とようざつべん)』である。その名も「日本国王子」という囲碁の名手。「日本人は碁が強い」という噂(うわさ)は、この時代によく知られたことであったらしい、と作家の陳舜臣さんが書いている◆王子は唐で最強の棋士と対局し、接戦の末敗れる。事情を知らない王子は「相手は国内で何番目に強いのか」と唐の役人に尋ねた。小国の挑戦者に苦戦したとあっては大国のメンツにかかわる。「彼は3番目です」と役人はウソをつく…。いつの世も国際試合には国の威信がつきまとう◆こちらの「王子」たちはどんな健闘を見せてくれるだろう。アジア初開催となるラグビーW杯の日本大会があす開幕する。31人の選手中、ほぼ半数の15人が外国出身という「日本代表」には違和感もないではない◆代表資格に国籍は必要なく、3年以上住み続けていればいい、といった比較的緩やかな条件は、いかにも移民国家の英国発祥のスポーツらしい。4年前みたいに大金星でも上げれば、この違和感など都合よく忘れてしまうのだろうけど◆多様なルーツを持つ「王子」たちは、外国人材に頼らなければ立ち行かない日本の写し絵でもある。「国の威信」とは何か、ふと考え込む。〈ラグビーの渦潮(うずしお)とけて奔(はし)り出づ〉(水原秋櫻子)(桑)

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