文化財保存の政府間機関「イクロム」(国際文化財保存修復センター)が、専門家向けのセミナーを、西松浦郡有田町の佐賀大学有田キャンパスで開いている。世界16カ国の専門家が参加し、20日まで2週間にわたり、文化財保存の研修に打ち込んでいる。

 「イクロム」は1959年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が設立し、136カ国が加盟している。文化財の保存・修復のレベルアップを目的に、研究の促進や助言・勧告、研究者・技術者の養成に取り組んでいる。

 本部が置かれたイタリア・ローマにちなんで「ローマ・センター」とも呼ばれ、ローマ以外でセミナーを開くのは初めてだ。

 有田が選ばれたのは、日本磁器発祥の地として400年の歴史を有する陶都であり、原料を産出した泉山磁石場(じせきじょう)などの史跡がしっかりと保存され、しかも現在も息づく産業都市としての性格が大きい。山あいの小さなエリアに磁器に関する文化遺産が集積する「文化財のコンパクトシティー」という魅力に加え、国際レベルの専門家が所属する「九州陶磁文化館」が学術的な側面から支えている。

 この恵まれた環境が、文化財保護を掲げるイクロムにとっても格好の教材だったというわけだ。

 セミナーを誘致した佐賀大学は、2017年4月に佐賀県立有田窯業大学校を有田キャンパスとして統合した。大学と地域が連携する意義も大きい。

 参加した16カ国は多数の世界遺産を抱えるインドやエジプト、イランをはじめ、カナダやベルギーなどの先進国、エチオピアやジンバブエまで世界各地にわたる。

 セミナーの一部を公開するフォーラムが14日に開かれ、「世界の文化財は今~経験の共有」というテーマで、専門家たちが発表した。1人ずつ壇上に立ち、それぞれが抱える課題などを率直に報告しあったが、共通するのは文化財保護に対する社会的な理解がいまだ乏しいという悩みだった。

 例えば、パキスタンの研究者は、16世紀の建物がどのように“修復”されてしまったかを写真で示してみせた。長い年月を経て朽ちていた建物が、ペンキで真っ白に塗られ、まっさらな新築に化けていた。「文化財修復の知識がない人が手掛けると、こういうことが起きます」と嘆いていた。

 大学で専門家の養成カリキュラムを持つ先進的な国でも、文化財の保存・修復は、社会的には優先順位が高いとは言いがたい。いかに専門的な意義を広く伝え、社会的な理解と支持を取り付けていくか、そのためにインターネットを利用している事例などが報告されていた。

 今回参加した研究者らはいずれも、それぞれの国で文化遺産保護を中心的に担う専門家だ。セミナーでは窯業技術の継承や博物館資料の保存修復などのフィールドワークに加えて、地元の人々とふれあう場面もあった。

 ローマ以外で初めてとなるセミナー。運営した佐賀大学芸術地域デザイン学部の石井美恵准教授は「友好を通じた絆が生まれた。これを足がかりに相互の交流を深めていきたい」と語っていた。研修も残りわずか。佐賀で生まれた友好のネットワークが生み出す未来に期待したい。(古賀史生)

このエントリーをはてなブックマークに追加