上映会には約80人が詰め掛け、監督らによるトークショーもにぎわった=8月24日、佐賀市松原のシアター・シエマ

 スクリーンには、地方の商店街にある電気屋が映し出された。「人通りはない。店のシャッターは閉まり、シャッターに描かれた絵は色あせている」。本編ナレーションとは別に、視覚的な情報を補う音声ガイドが映像とともに流れた。

 8月24日、佐賀市のシアター・シエマで開かれた音声ガイド付き映画の上映会。作品は、知的障害がある男性「ひいくん」と町の人のつながりを描いたドキュメンタリー映画「ひいくんのあるく町」だ。

 「山下清みたいに素朴な感じかな。町が家族みたいだった」。鳥栖市の西依にしより政雄さん(69)は「ひいくん」の姿を想像して時折ほほ笑みながら鑑賞した。西依さんは50代になって視力が徐々に落ち、今は物や色が判別できない弱視の障害がある。

 ■気軽に楽しめない

 西依さんは普段、映画の原作本を「予習」してから一般上映を鑑賞する。数人が話す会話が、誰のせりふなのか識別できない場合もあり、「なるべく声が分かる昔の俳優が出る作品を選ぶ」という。「話題作を見たいと思っても、特に洋画は吹き替えがなければ鑑賞できない」と語るのは全盲の障害がある鹿島市の山下光義さん(57)。視覚障害者にとって劇場での映画鑑賞は、気軽に楽しめる娯楽とは言い難い。

 2016年に施行された障害者差別解消法では、「障害を理由にサービスを受けられない」などの差別を禁止している。時を同じくして、字幕などの制作会社が音声ガイドを再生するアプリのサービスを始め、目や耳が不自由な人も劇場で映画を楽しめるようになった。

 「音声ガイドがあるのとないのとでは理解度が全然違う。肩の力を抜いて作品を味わえる」。西依さんは最近、年4回ほどアプリを使って劇場で鑑賞しており、以前との環境の変化を実感している。

 ■対応は10%前後

 ただ、近年の上映作品のうち音声ガイドに対応しているのは10%前後にとどまる。単館上映の作品の多くは、全国のボランティア団体がガイドを制作しているのが実情だ。今回上映された「ひいくん―」は、佐賀のボランティア団体「みないろ会」が初めて音声ガイドを吹き込んだ。

 県内で障害者手帳を持つ視覚障害者は2585人(3月末現在)。映画好きの西依さんは佐賀での活動に期待を寄せる。「やっぱり見たいのは佐賀の映画。目が見えなくなる前に見た『張込み』や『男はつらいよ』をもう一度見たいですね」。

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 目や耳が不自由な人に向けた音声ガイドや字幕を制作するボランティア団体「みないろ会」などが8月、初制作した音声ガイド付き映画上映会を開いた。障害者差別解消法から3年、障害のあるなしにかかわらず映画を楽しめる社会とは―。上映会に訪れた視覚障害者の声と取り組みの現状を探る。

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