「開門」と「非開門」のねじれた司法判断の解消とはならなかった。国営諫早湾干拓事業の潮受け堤防排水門の開門を命じた確定判決に従わない国が、漁業者に開門を強制しないよう求めた訴訟の上告審で、最高裁は開門命令を無効化した福岡高裁の判決を破棄し、審理を高裁に差し戻した。

 潮受け堤防閉め切りから22年が過ぎても、有明海の漁業者と干拓営農者、ひいては佐賀県と長崎県の対立、分断を生んでいる状況がなお続く。法廷闘争のさらなる長期化は有明海再生への歩みを遅くするだけだ。確定判決を履行しない国は開門によらない基金案だけでなく、いま一度、和解実現に向けた新たな方策を探るべきだ。

 福岡高裁は昨年7月の判決で、原告漁業者の漁業権は10年間で消滅し、それに伴い開門を請求する権利も消えたとして開門命令の無効化の根拠に挙げていた。最高裁はこの判断について、無効化の理由とはならず、「是認」できない法令違反と断じた。高裁判決の時から、更新されるのが半ば前提である漁業権を理由とするのは、他の事例への波及も考えれば、無理があるという識者の指摘もあっただけに、妥当な判断と言える。

 ただ、今回の審理差し戻しの判断は、開門命令無効化の理由として漁業権消滅は値しないという指摘にすぎない。言い換えれば、無効化の理由を十分に整理し、ほかの理由で出し直すよう求めているともとれる。決して潮目が再び変わり、開門への流れを呼び戻しているわけではない。原告の漁業者や弁護団が一様に安堵(あんど)した表情を浮かべつつ、開門への道のりは依然険しいと捉えていることがうかがえる。

 農林水産省は裁判官の付帯意見を含め判決文を分析中とした上で、「司法判断は尊重すべき」との受け止めを示した。一方で、2017年4月に示した開門によらない漁業振興基金による解決を目指す方針を改めて強調した。高裁段階で農水省は漁業権消滅以外の理由に、諫早湾近郊の漁獲量の増加や、開門するための対策工事が長崎県の反対で不可能なこと、間接強制の制裁金として12億円を支払っており強制執行の乱用に当たる可能性を挙げている。最高裁は高裁にそれらの審理を尽くすよう求めており、国は「非開門」の姿勢を堅持し、無効理由の補強に傾注することが予想される。

 国はノリの凶作を受け、2002年に有明海・八代海特別措置法を制定し、海の環境改善などで500億円以上を投じて有明海再生を目指している。漁獲回復の兆しは一部で見られるものの、高級二枚貝のタイラギは7季連続で休漁状態が続く。資源回復の歩みは遅い。佐賀県や県有明海漁協は、抜本的な対策のためには、開門調査による原因究明が欠かせないという立場は変えていない。

 「分断の海」の歴史をこれ以上続けることは、漁業者にとっても、有明海再生のための唯一の解決策なのだろうか。今のところ、漁業者、国とも従来の主張を貫き、平行線の状況は変わりそうもない。双方とも問題の早期解決を口にしている。和解協議の決裂を繰り返さないためにも、「できない」理由探しではなく、「できる」ための努力を求めたい。

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