遠山(とおやま)香里(かおり)
 武田(たけだ)信玄(しんげん)は戦(いくさ)を影武者(かげむしゃ)にまかせて逃走(とうそう)開始(かいし)。しかも、落馬(らくば)したわたしとタイムは、だれかに身体(からだ)をつかまれて、運(はこ)ばれてしまった!

「香里(かおり)ちゃん……!」
「……だいじょうぶ?」
 拓(た)っくんと亮平(りょうへい)くんの声(こえ)が、すぐそばから聞(き)こえた。
「拓(た)っくん……亮平(りょうへい)くん……。」
 わたし-遠山(とおやま)香里(かおり)-は、上半身(じょうはんしん)を起(お)こすと、ふたりに声(こえ)をかけた。
「来(き)てたんだ……。」
 未来(みらい)から戦国時代(せんごくじだい)にいっしょにタイムスリップしていたんだ、という意味(いみ)。
「ワン!」
 地面(じめん)に立(た)っているタイムもうれしそうに吠(ほ)え、尻尾(しっぽ)を振(ふ)る。
 そして、わたしは、いった。
「わたしひとりじゃなくて、よかった……。」
 わたしを抱(かか)えて立(た)たせてくれながら、拓(た)っくんがいった。
「いまは、ここにいたらあぶないよ。戦場(せんじょう)のど真(ま)ん中(なか)だから。」
 わたしたち三人(さんにん)と一匹(いっぴき)は、できるだけ端(はし)っこまで走(はし)った。
 走(はし)りながら、わたしが武田(たけだ)信玄(しんげん)のもとにタイムスリップして料理(りょうり)に失敗(しっぱい)して大量(たいりょう)の湯気(ゆげ)をあげたことを話(はな)した。拓(た)っくんは上杉(うえすぎ)政虎(まさとら)のもとにタイムスリップして、わたしのあげた湯気(ゆげ)を目撃(もくげき)したことを話(はな)してくれた。亮平(りょうへい)くんが口(くち)を開(ひら)く前(まえ)に、わたしはあることを思(おも)い出(だ)して、ふたりに写真(しゃしん)を見(み)せた。
「見(み)て! 一騎打(いっきう)ち像(ぞう)が消(き)えてるの! 上岡(かみおか)さんたちの姿(すがた)も薄(うす)くなってるの!」
 拓(た)っくんがいう。
「だって、武田軍(たけだぐん)と上杉軍(うえすぎぐん)は戦(たたか)ってる。あそこに白(しろ)い毛(け)の兜(かぶと)をかぶった武田(たけだ)信玄(しんげん)、あっちに白(しろ)い頭巾(ずきん)をかぶった上杉(うえすぎ)政虎(まさとら)がいるぜ。」
 わたしは首(くび)を横(よこ)に振(ふ)った。
「あの人(ひと)は武田(たけだ)信玄(しんげん)さんじゃない! 影武者(かげむしゃ)なの! 弟(おとうと)の信繁(のぶしげ)さんなの!」
「だから……この一騎打(いっきう)ちの像(ぞう)が消(き)えてるし、それを見(み)に行(い)った上岡(かみおか)さんたちも消(き)えかけてるってわけか……ヤバいじゃん!」
 そこで亮平(りょうへい)くんが口(くち)を開(ひら)いた。
「もっとヤバいことになりそうなんだよ。」
「ヤバいって、なにがなの?」
「どういうことだよ、亮平(りょうへい)。」
「おれ、織田信長(おだのぶなが)にやとわれている加藤(かとう)段蔵(だんぞう)って忍(しの)びのところにタイムスリップしたんだけど、あの人(ひと)、上杉(うえすぎ)政虎(まさとら)のことも武田(たけだ)信玄(しんげん)のことも暗殺(あんさつ)するように命(めい)じられているんだ! だから……。」
 わたしは、亮平(りょうへい)くんにいった。
「止(と)めないと、歴史(れきし)が変(か)わっちゃうよ!」
「そうなんだよ。」
 拓(た)っくんが、亮平(りょうへい)くんにきく。
「亮平(りょうへい)、加藤(かとう)段蔵(だんぞう)って、あのゲームに出(で)てきた『飛加藤(とびかとう)』だよな。どこにいるんだよ。」
「わからないよ。香里(かおり)ちゃんを見(み)つけて走(はし)ってきてから、はぐれちゃってる。」
「まいったな……。」
 あたりを見(み)まわしていたわたしは声(こえ)をあげた。
 白(しろ)い頭巾(ずきん)をかぶった政虎(まさとら)さんが、白(しろ)い毛(け)の兜(かぶと)をかぶった影武者(かげむしゃ)の信繁(のぶしげ)さんに斬(き)りかかっていくところだった。
「ダメよ、政虎(まさとら)さん! その人(ひと)は信玄(しんげん)さんじゃない!」

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 楠木誠一郎(くすのきせいいちろう)/作(さく)
 福岡県(ふくおかけん)生(う)まれ。「タイムスリップ探偵団(たんていだん)」シリーズのほか、『西郷隆盛(さいごうたかもり)』(講談社(こうだんしゃ)火(ひ)の鳥(とり)伝記(でんき)文庫(ぶんこ))など多(おお)くの著書(ちょしょ)がある。小学生(しょうがくせい)の頃(ころ)の得意(とくい)科目(かもく)は図工(ずこう)と社会(しゃかい)。

 たはらひとえ/絵(え)

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