日産自動車の西川(さいかわ)広人社長兼最高経営責任者(CEO)が辞任に追い込まれた。側近として仕えた前会長カルロス・ゴーン被告による会社の私物化を許してしまった責任が問われ続ける中、自らの不正報酬問題が発覚し、再建の先頭に立つ足場が失われた。

 業績不振からの脱却、フランス大手ルノーとの関係見直しなど経営上の問題は山積しているが、企業体質の改善が最優先課題だろう。

 西川氏は6月の株主総会で続投が決まったが、取締役選任議案での賛成比率は78%と、ほかの取締役と比べ大幅に低かった。また機関投資家である日本生命保険も西川氏の再任に反対していた。株主の間で資質を疑問視する動きが広がる中で、西川氏は社長を続けてきた。

 辞任の直接の引き金になったのは「ストック・アプリシエーション権(SAR)」と呼ばれる株価連動報酬だ。株価が事前に決められた水準を超えると差額が受け取れる制度で、権利の行使日をずらし、その間の株価上昇によって、西川氏の報酬は約4700万円上乗せされた。

 同氏は関与を否定し「意図を持った不正とは違う」と弁明した。しかし、誰からの指示もない中で、担当者が勝手に権利の行使日を変更するのは不自然だ。十分な説明とは言えない。

 取締役会が辞任を要請した。西川氏をトップに頂いたままでは再生はままならないとの判断だろう。

 会社法違反(特別背任)などの罪で起訴されたゴーン被告を口を極めて非難し、信頼回復のために改革の旗を振ってきた当の本人が、報酬問題で疑念を持たれ、トップの座から追放された。フランスのメディアが「ミイラ取りがミイラになった」と皮肉ったのも無理はないだろう。

 さらに、西川氏以外の複数の取締役、執行役員がSAR制度を巡る同様の不正に手を染めていたことが分かった。トップとその周辺に報酬を巡る不正が広がっていたことになる。日産が抱える病根の深刻さが改めて浮き彫りになったと言えるだろう。

 株価と報酬を連動させ、役員を業績向上に向け鼓舞する手法はそれ自体は悪いことではない。恣意(しい)的な運用が許されていたのなら、経営規律に弛緩(しかん)が生じていたことになる。

 経営危機脱出と急速な業績回復を突き進んだゴーン時代の「負の遺産」なのかもしれないが、現経営陣がそれから完全に脱し切れていないのではないか。これでは再生はおぼつかない。

 日産は西川氏の後任社長を10月末までに選定するが、こうした状況を考えれば、日産内部からの昇格は、従業員や取引先、金融機関などから理解を得るのは難しいだろう。後任社長には、ゴーン時代と完全に決別した新生日産をゼロからつくり直す気概が求められる。時間は限られているが、候補者探しは社外にも広く目を向けたい。

 2019年4~6月期の連結営業利益は前年同期比98・5%減と激減した。ゴーン被告が敷いた拡大路線が市場の変化に対応できていないのだ。新社長の下で経営を早急に正常化し、主戦場である電気自動車(EV)や自動運転などの開発に経営資源を投入できる態勢をつくらなければ、日産の未来は見えてこない。(共同通信・高山一郎)

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