商品の仕分け作業を急ぐ東鶴酒造の野中保圀さんら=3日、多久市東多久町

 8月末の記録的な豪雨で多久市の東鶴酒造をはじめ佐賀県内の四つの蔵元にも被害が及んでいる。被害額は1千万円を超える見込み。被害が大きかった蔵元のもとへは県内外のボランティアが駆け付けて復旧に乗り出し、「佐賀の酒」への支援の輪が広がっている。

 「蔵の中が川になった」。甚大な被害を受けた東鶴酒造の野中保斉(やすなり)社長(39)は28日早朝、自宅と酒蔵の周辺が水浸しになっているのを見て家族で避難した。水位が下がった同日昼ごろ、酒蔵に戻ると40センチの高さまで水に漬かった跡が確認できた。

◆同業者ら集合

 貯蔵していた日本酒の1割に当たる約1千本が水没し、新しく掘った井戸も浸水した。使えなくなったポンプや冷却設備を含めて、損害は1千万円に上る見通し。「途方もない数字」だが、被害を聞きつけた県内外の同業者や取引業者ら約30人が8月29日から連日、駆け付けた。今月1日までに泥水を全てかき出し、蔵の消毒も終えた。

 福岡県糸島市から応援に訪れた白糸酒造の吉岡大典主任(38)は「自分の蔵がこうなっていたらと思うとぞっとする。一日でも早く元の状態に」と同僚3人で室の応急処置を手伝った。

 佐賀県酒造組合の呼び掛けに応じ、支援活動に参加した大和酒造(佐賀市)の小川仁製品部次長(47)は作業を終え、商品を買おうとしたところ、既に在庫がなかった。ボランティアの人たちが買って帰ったといい、人の温かみを感じたと同時に「それだけ客との関係を築いた商いをされていたということ」と感心した。

 「商品を買って応援しよう」という顧客の動きは広がり、取引先の酒販店でも在庫切れが相次いでいる。

 以前から使っていた井戸のポンプは復旧し、「水質も問題はなさそう」と野中社長。多くの支援に感謝し、「今季の酒造りに間に合うように、地元の米農家も準備を進めてくれている。元気になったと、うまい酒で恩返ししたい」。10月初旬に始める予定だった今季の仕込みは数週間程度、遅れる見通しだが、父母と社員の4人で一歩ずつ、再建に向けて歩み始めている。

◆返品の恐れ

 ほかに被害を受けた蔵元は、窓乃梅酒造(佐賀市)、天山酒造(小城市)、小柳酒造(同)。

 窓乃梅酒造は一番奥の蔵が約20センチ浸水した。消毒や拭き上げなどを終え、2日から通常業務に戻ったが、被害に遭った酒販店から浸水した酒が返品された。酒瓶が水に漬かると、ラベルが浮き上がり瓶も汚れる。県酒造組合会長を務める古賀醸治社長(71)は「ふたまで全て漬かるとほぼ売り物にならず、恐らく中身も処分せざるを得ない」と語り、「これからどれだけの商品が返ってくるのか見当がつかない」と肩を落とした。

 天山酒造では酒蔵が浸水したものの大きな被害はなく、8月29日から通常営業に復帰した。七田謙介社長(48)は被災した同業者を気遣い、SNSのフェイスブックに「佐賀の日本酒を応援していただければ幸いです」と書き込んだ。小柳酒造は27日夕、店舗と事務所を兼ねた自宅の母屋と酒蔵との間にある幅2メートルほどの川があふれ、自宅部分が浸水した。酒蔵は消毒を済ませ31日に営業を開始した。

 SNSで被害の状況を知った関係者や日本酒ファンから心配の声や支援を希望する電話などが各蔵元に相次いでいる。県酒造組合の古賀会長は「仲間の助け合い、支え合いが何よりありがたい。皆で力を合わせ佐賀の酒を復興させたい」と再建を誓った。

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