住宅前に並ぶ油回収の吸着マット。佐賀鉄工所大町工場から流出した油は広範囲に及び、除去の見通しはたっていない=1日、杵島郡大町町福母

 記録的な大雨による浸水で、杵島郡大町町の佐賀鉄工所大町工場から約5万リットルの油が流出して1週間が過ぎた。県によると、工場や順天堂病院周辺では回収が進んでいるが、農地や宅地などでは油除去の見通しが立っていない。油流出は約30年前にも発生し、同社では建物のかさ上げなどの対策をとっていたが、今回はその「想定」を超えるレベルの浸水となり、被害が拡大した格好だ。

 「畳やタンスなど油が染みて処分せざるを得ない。思い出の写真もほとんど処分してしまうかも。言葉にならない」。周辺道路の冠水で一時孤立した順天堂病院の近くに住む岸川マサノさん(73)は肩を落とした。「油さえ来ていなければこんな状態になっていない。健康被害も心配」と今後への不安を吐露した。

 回収作業は、自衛隊や九州地方整備局、鉄工所社員らがオイルフェンスを六角川に5カ所設置したり、吸着マットを使って実施。油膜は六角川の六角橋から下流では確認されず、県は「有明海への油流出はない」「ノリ漁への影響はない」との見方を示している。

 県によると、油の流出範囲は大町工場から東と南東方向に約1キロに及んだ。農作物への被害は水稲25・8ヘクタール、大豆15・3ヘクタール。流出面積は推計で約82万5千平方メートルに及び、「国内でも類を見ない最大規模」と指摘する専門家もいる。

 大町工場では1990年7月の水害時に同様の油流出が発生。事故の反省から同社が講じた主な対策は、油をためる油槽がある建物の数十センチのかさ上げと建物への高さ3・5メートルの重量シャッター3台の設置だった。今回は、かさ上げした建物で最大60センチの浸水が発生するなど「想像を超える雨」(同社)だった。

 同社によると、油槽は八つで約10万リットルを保管。建物内で管理し、床下約3メートルに設置している。冷却し強度を高めるため、ベルトコンベヤーを使ってボルトを油槽に移動する。24時間稼働していて、油槽にふたはない。設備の構造上、密閉することは難しいという。

 浸水当時の8月28日は、午前4時半ごろに油槽がある建物の稼働を停止させたが、その30分後には油の流出を確認。浸水の勢いが激しく、午前5時半ごろには従業員は避難した。

 同社によると、三つの重量シャッターのうち、北東側と南西側のシャッターから水が入り込んだ。油槽に水が流れ、油が浮き上がる形であふれ出したという。

 今回の油流出を受け、杵藤地区広域市町村圏組合は、佐賀鉄工所大町工場の熱処理工場に対し、8月30日付で消防法に基づく使用停止命令を出した。

 「小学6年だった30年前も同じ被害にあった。反省を踏まえ打つ手があったのではないか。天災と人災が重なったと思う」。工場近くにある自宅に油が流れ込んだ野口必勝さん(42)は憤りが収まらない。

 同社では「新しい対策をとっていく必要がある」との考えを示す。同様の事業所にも今回のような事案が考えられることから、県工業連合会の吉村正会長は「近年は、いつ大きな災害が起きるかわからない。これを教訓に業界全体で対策を考えていきたい」と話した。

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