「天災は忘れた頃にやってくる」―この警句を物理学者寺田寅彦の名言として世に広めたのは、雪の研究で知られる教え子の中谷宇吉郎とされる◆日ごろ寺田が語っていた言葉で、随筆にも書いてあると思い込んで新聞の寄稿で紹介したら、方々に引用されて有名になった。別の新聞から名言の解説を依頼され、師の著作を繰ってみたが、どこにも同じ記述がない…。大いに困った中谷はこう開き直っている。〈これは、先生がペンを使わないで書かれた文字である〉◆あす9月1日は関東大震災の教訓を伝える「防災の日」。台風が多い厄日とされる、立春から数えて「二百十日」でもある。折からの大雨で救援作業が続くさなかに、暦の巡り合わせの奇縁を思う◆毎年のように豪雨に見舞われ、天災を決して忘れたわけではないのに、急激な増水になすすべもなかった。工場からの油流出が復旧の足かせになっている深刻な被災地を、ただ歯ぎしりする思いで見つめている◆「二百十日」は「風日(かざび)」とも呼ばれ、県西部地区では農作物を守る「風鎮め」の祭りが盛んに行われる。神社に浮立を奉納し、地域の平穏無事を祈る―風水害の記憶を忘れない知恵でもある。中谷にならえば「先人がペンを使わずに書いた文字」だろう。自然の猛威を思い知らされた今年は余計、祭りばやしが身に染みる。(桑)

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